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心霊

ねこじろうさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

おむかえ
長編 2023/01/22 16:59 3,723view

恐々後ろから声をかけると、トオルくんは

「あ、西野くん。母さん、まだ来ないんだ。もうそろそろ来ると思うんだけどなあ」と不安げな表情で呟く。

「ねぇ先生来るから、もう帰ろ」と言って、西野はトオルくんの袖を無理やり引っ張り、外に出た。

雨は勢いを増していた。

バシャバシャバシャバシャバシャ

西野とトオルくんは二人、傘をさしながら狭い路地を歩いている。

通りにはもう児童たちの姿はなく、道路は閑散としていた。

トオルくんは途中何度も立ち止まると、名残惜しげに後ろを見るが、その都度西野は袖を引っ張り歩き続ける。

心の中で、あの女性が現れないことを祈りながら、、、

バシャバシャバシャバシャバシャ

降り続く雨に煙る道を2人とぼとぼ歩き、最初の角を曲がる。

するといきなりトオルくんが足を止めた。

ドキリとして西野は「どうしたの?」と横顔を見る。

トオルくんは少しの間何か考えるような顔をして立ち止まっていたが、やがてまた歩きだした。

バシャバシャバシャバシャバシャ

そしてしばらくしてまた立ち止まると、今度はこう言った。

「ねぇ、後ろから誰かついてきてない?」

「え!?」

驚いて西野が咄嗟に振り向いた途端、ゾクリと背中に冷たいものが走った。

2人の立つ位置から3メートルほど後方に、白いワンピース姿の痩せた女が立っている。

黒い前髪はベッタリ張り付き、顔は見えない。

頭のてっぺんから足先までずぶ濡れで、か細く青白い2本の足は裸足だ。

女はゆっくり片手を顔の横に持ってくる。

小豆色の傘がパッと開いた。

西野は息を飲む。

トオルくんは「母さん」と一言呟くと傘を落とし、くるりと踵を返して、まるで夢遊病者のように歩き始めた。

慌てて「トオルくん、行っちゃダメだ!」と西野は背中に向かって叫んだが、全く聞こえていないかのように真っ直ぐ女に向かって進んで行き、そのまま傘の中に入っていく。

そして2人は西野に背を向けると、手を繋ぎ歩きだした。

それから呆然と立ち尽くす彼を道に残したまま、大量に降り注ぐ銀色の滴でぼんやり霞む道を、寄り添いながら歩を進めていき、やがて見えなくなった。
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