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心霊

LAMYさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

ある幸運な男の苦悶
短編 2023/03/01 01:15 3,491view
 鮎川さんは、少女の幽霊にずっと守られているという。

 それを初めて自覚したのは、とある冬の日に泥酔しながら帰途に就いている時だった。
 赤信号を無視して横断歩道を渡っていた鮎川さんは、思いがけずずるりと滑って転んでしまった。その日はとても寒い日で、路面もひどく凍結していたのだが、泥酔時特有の判断能力の低下が災いしてつい不用意な歩き方をしてしまったのだという。

 そして折悪く、その時トラックが来ていた。
 車との距離がまだ多少あったため、信号無視しても無理なく渡り切れるだろうと判断して踏み出したのだったが、その迂闊が此処に来て鮎川さんの命運を奪い去ろうとしていた。

 あ、これは死んだ。
 悪いことばっかりしてきたから地獄行きだな。

 そんなことを思いながら、迫るトラックのテールランプを呆然と見つめていた鮎川さんだったが、しかし。
 彼とトラックとの間に、突然すっと人影が現れた。
 黒髪に、セーラー服の少女だったそうだ。
 その少女が現れた途端、今まで真っ直ぐこちらに突っ込んできていたトラックが真横にスリップし、そのまま轟音を立てて電柱に激突した。
 
「九死に一生を得た、ってよりも……ただただ怖くてなぁ。何しろ知ってる顔だったから、どういうことだって混乱するしかなかったよ」

 鮎川さんはその後、警察から事情聴取を受けたもののすぐに解放された。
 経歴が経歴なため、多少食い下がられはしたものの、信号無視をしたことに対する厳重注意くらいで済んだそうだ。

 その後も、鮎川さんは何度か死にそうな目に遭った。
 そしてその度に、セーラー服の少女が目の前に現れて……彼女が出現するのに合わせて、間近まで迫っていた死が遠のいていったのだという。
 居酒屋で些細な言い争いから荒事に発展して路地裏に引き込まれ、数人がかりでタコ殴りにされて死を覚悟した時も、彼女が現れるなりすぐに呼んでもいない筈の警察が駆けつけてくれ事なきを得た。
 勤務先の工場で作業中、同僚が自分の存在に気付かず機械を作動させてしまい死を覚悟した時も、彼女が現れるなり何故か突然機械が停止し、腰を抜かした際の軽い捻挫程度で済んだ。
 飲酒運転で自損事故を起こしかけた時には、少女が目の前に現れて慌ててハンドルを切ったことでなんとか致命的な事態を避けることができた。

 これまでに既に七回、鮎川さんは件の少女に命を救われているという。
 本当なら感謝し、幸運の守り神だとそう崇めてもおかしくはない話だが、しかし鮎川さんは彼女が現れるたび全身が凍り付くような恐怖に襲われるのだと私に語った。

「だって、守ってくれる理由がねえからさ。
 何考えてんのか、本当に分かんねえんだよ」

 ……鮎川さんが社会復帰を果たしたのは、今から約十年ほど前のことである。
 それまで彼は、とある残虐な犯罪が原因で刑務所に収監されていた。
 罪状は強姦致死。被害者となったのは、当時未成年の少女。
 鮎川さんが死の淵に立たされた時決まって現れ、彼を助けてくれたセーラー服の少女は……彼がその手で殺めた被害者と全く同じ格好と、そして死に顔をしているのだという。

「俺が殺しちまった時と、全くおんなじ顔してんだよ。半分白目剥いて、口から舌出して、泡吹いてさ……その顔のまんまで、毎回俺を助けてくれんだよ。
 分かんねえよ、何がしたいのかさぁ──」
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コメント(5)
  • 簡単には死ねないものですね。

    2023/03/03/02:47
  • 何回も死にそうになること自体そんなにないよね?守ろうとしてたんじゃなくて殺そうとしてた…?

    2023/03/03/13:39
  • もしかして少女の方に、もっと最悪な死に方をさせる事ができるアテでもあるのか?

    2023/03/04/00:46
  • 迫るトラックのテールランプ…?

    2023/03/05/04:01
  • 病気で死なす。
    多分コレだろうな。
    それも幸せになった絶頂期に。
    永く永く苦しめるつもりなんだろう。

    2023/03/15/12:54

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