小野さんは元来、霊的なものが全く見えない人間だったという。
その体質のまま二十年近く生きてきたそうだが、ある出来事があってからというものしばしば“そういうもの”を見るようになり、今では恐怖体験の数を数えるのに両手の指が必要な程度には「見える」人間になっている。
「いやあ、見えない人が見える人になるきっかけってのは…ほんと、突然やってくるもんだよ」
これは、そう口にした小野さんがまだ高校生の頃の話だそうだ。
小野さんの家の近所に、一軒の廃屋があった。
元は駄菓子屋だったそうだが、彼が生まれた頃には既に廃屋となって久しかったようだ。
彼が親御さんから聞いたところによると、その駄菓子屋は昔子供たちの定番の溜まり場だったということである。
昔気質のなかなか豪気なお婆さんが経営していて、普段は優しいし明るいけれど駄目なことをしたらとことん叱る、そんな人だったらしい。
私は店に来る子供はみんな自分の孫だと思っとる!が口癖で、子供たちからは鬼婆と恐れられつつもそれこそ第二の祖母のように親しまれており、小野さんの母親もしばしば店に足を運んではお婆さんに遊んでもらったり、面白い話を聞かせてもらったりしていたということだ。
しかし残念ながら、お婆さんは「みんなのお婆ちゃん」として親しまれたまま往生することは出来なかった。
事の発端は、万引きを捕まえたことだったという。
女の子も多く来るお店だったので子供向けのアクセサリーなんかも置いていたのだが、ある日お婆さんは品物の数が合わないことに気付いた。
もしや万引きされたのかと疑う彼女のところに数人の女子グループがやってきて、〇〇ちゃんがネックレスを盗んでやったって自慢してた――と告げ口をしたそうだ。
激怒したお婆さんは、後日店にやってきた当該児童を捕まえて烈火の如く怒鳴りつけたらしい。
本当の孫のように子どもたちを可愛がっていた分、裏切られた悲しみや怒りも大きかった、というのももちろんあったのだろう。
しかし、素直に認めて謝っていたらきっとあの人は許していたと思う…というのが小野さんの母の弁だった。
件の女の子は、怒り狂うお婆さんの前で泣きながらこう言ったというのだ。盗ってない、私じゃない、と。
少女の訴えはまさに火に油で、お婆さんは彼女の学校に電話をかけ、担任教師と校長を呼び出した。そして泣きじゃくる女の子を、呼び出した二人の前で散々に面罵し、お前たちの教育はどうなってるんだと捲し立てたのだという。
最終的には親まで呼んで、二度とうちの店に来るな、と言い渡してようやくお婆さんの激昂は収まった……のだが、これだけ大事にされて怒鳴り散らかされた女の子にとってはむしろそこからが始まりだった。
親に泣かれ、先生には問題児扱いで呼び出され。クラスメイトや同級生、それどころか下級生からも犯罪者呼ばわりされて、自分の言い分は誰にも聞いてもらえない。とてもではないが、それは小さな子供に耐えられる責め苦ではなかったのだろう。
女の子は数日後、学校近くの歩道橋から道路に飛び降りて亡くなってしまったのだそうだ。
その頃には荒れ狂うような怒りも冷めていたお婆さんは、件の報を聞いて大きなショックを受けたという。
けれどあれだけ怒鳴って罵ってしまった以上、今更言い過ぎたとも言えなかったのか。
お婆さんは誰かにその話を振られる度に、「あんな悪タレは死んで当然」「死んで逃げるなんて卑怯」などと悪態をついていた。
しかしある日、彼女は自分がとんでもない過ちを犯してしまったのだと知ることになった──。
その日、店に親子連れがやって来た。
険しい顔の両親に挟まれて、真ん中には泣き腫らした見覚えある顔。
それは、あの日万引きの犯人を告げ口した女子グループの中の一人だった。
「実は……」
すまなそうな顔をしてその子の母親が口にした言葉は、お婆さんにとって信じられないものであった。
その体質のまま二十年近く生きてきたそうだが、ある出来事があってからというものしばしば“そういうもの”を見るようになり、今では恐怖体験の数を数えるのに両手の指が必要な程度には「見える」人間になっている。
「いやあ、見えない人が見える人になるきっかけってのは…ほんと、突然やってくるもんだよ」
これは、そう口にした小野さんがまだ高校生の頃の話だそうだ。
小野さんの家の近所に、一軒の廃屋があった。
元は駄菓子屋だったそうだが、彼が生まれた頃には既に廃屋となって久しかったようだ。
彼が親御さんから聞いたところによると、その駄菓子屋は昔子供たちの定番の溜まり場だったということである。
昔気質のなかなか豪気なお婆さんが経営していて、普段は優しいし明るいけれど駄目なことをしたらとことん叱る、そんな人だったらしい。
私は店に来る子供はみんな自分の孫だと思っとる!が口癖で、子供たちからは鬼婆と恐れられつつもそれこそ第二の祖母のように親しまれており、小野さんの母親もしばしば店に足を運んではお婆さんに遊んでもらったり、面白い話を聞かせてもらったりしていたということだ。
しかし残念ながら、お婆さんは「みんなのお婆ちゃん」として親しまれたまま往生することは出来なかった。
事の発端は、万引きを捕まえたことだったという。
女の子も多く来るお店だったので子供向けのアクセサリーなんかも置いていたのだが、ある日お婆さんは品物の数が合わないことに気付いた。
もしや万引きされたのかと疑う彼女のところに数人の女子グループがやってきて、〇〇ちゃんがネックレスを盗んでやったって自慢してた――と告げ口をしたそうだ。
激怒したお婆さんは、後日店にやってきた当該児童を捕まえて烈火の如く怒鳴りつけたらしい。
本当の孫のように子どもたちを可愛がっていた分、裏切られた悲しみや怒りも大きかった、というのももちろんあったのだろう。
しかし、素直に認めて謝っていたらきっとあの人は許していたと思う…というのが小野さんの母の弁だった。
件の女の子は、怒り狂うお婆さんの前で泣きながらこう言ったというのだ。盗ってない、私じゃない、と。
少女の訴えはまさに火に油で、お婆さんは彼女の学校に電話をかけ、担任教師と校長を呼び出した。そして泣きじゃくる女の子を、呼び出した二人の前で散々に面罵し、お前たちの教育はどうなってるんだと捲し立てたのだという。
最終的には親まで呼んで、二度とうちの店に来るな、と言い渡してようやくお婆さんの激昂は収まった……のだが、これだけ大事にされて怒鳴り散らかされた女の子にとってはむしろそこからが始まりだった。
親に泣かれ、先生には問題児扱いで呼び出され。クラスメイトや同級生、それどころか下級生からも犯罪者呼ばわりされて、自分の言い分は誰にも聞いてもらえない。とてもではないが、それは小さな子供に耐えられる責め苦ではなかったのだろう。
女の子は数日後、学校近くの歩道橋から道路に飛び降りて亡くなってしまったのだそうだ。
その頃には荒れ狂うような怒りも冷めていたお婆さんは、件の報を聞いて大きなショックを受けたという。
けれどあれだけ怒鳴って罵ってしまった以上、今更言い過ぎたとも言えなかったのか。
お婆さんは誰かにその話を振られる度に、「あんな悪タレは死んで当然」「死んで逃げるなんて卑怯」などと悪態をついていた。
しかしある日、彼女は自分がとんでもない過ちを犯してしまったのだと知ることになった──。
その日、店に親子連れがやって来た。
険しい顔の両親に挟まれて、真ん中には泣き腫らした見覚えある顔。
それは、あの日万引きの犯人を告げ口した女子グループの中の一人だった。
「実は……」
すまなそうな顔をしてその子の母親が口にした言葉は、お婆さんにとって信じられないものであった。
素晴らしく、読ませられる文章。怖い。
これ、俺の地元の駄菓子屋かも……
導入のお婆さんと子供の話がいい。めっちゃ引き込まれた。
今回の作品もとてもおもしろかったです
毎回会話に引き込まれる いや引き込まれるって書いたら怖いか
目先変えて ほっこりする話しでも聞かせてほしいです
導入から引き込まれるし、退屈させない、オチでしっかり怖い話でした。
どういうジャンルの話書いても上手いんじゃないかなこの方…
ババアより嵌めた元友達の枕元に拍手しに行けよ
これ悪いのばばあじゃなく嘘ついたガキじゃね?化けて出るならソコ行けばいいのに
こえ~~~
悪いのはババアもなんだよなぁ。
「死んで逃げるなんて卑怯」だね。
死んだ後も責め苦を受けてるみたいだけど。
幽霊よりも簡単に手のひらを返しまくる人間の方がよっぽど醜悪で恐ろしいよ。
老獪な老婆が「片口」をどうして信じた。
年齢を重ねるということは、人間はウソをつき、誤解も思い込みもするという知識を経験則として身につけることだ。
だから人の告げ口よりも、自分の経験や印象、目の前の事実を大事にする。
それに反する密告者の密告など真に受けるだろうか。
良かった
怖いというか胸糞悪い話だな。タイトルも不気味でいいね。