俺が初めに【あれ】の存在に気づいたのは、未菜と付き合いだしてちょうど2週間が経った初秋の頃のことだった。
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その日は午後から郊外のショッピングモールでウインドウショッピングしフード街で遅いランチをした後、しばらく俺の車でそこら辺を走っていたんだ。
車内に流れる心地よいBGMを聴きながら、互いに他愛もない会話を楽しんでいた。
楽しんでいたというか、ほとんど一方的に俺が喋るのを彼女が相槌を打つ感じだったんだけど。
未菜はどちらかと言うとコミュ障気味な方で無口なタイプだったからね。
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そんな未菜と俺との出会いのきっかけは、3ヵ月ほど前のある晩のことだった。
仕事帰りの道すがら石造りの橋を歩いていると、街灯の下ポツンと一人の女性が欄干の袂で俯いているのが視界に入る。
それが未菜だった。
薄い緑のワンピースで細身の彼女はどこか虚ろな目で、左手に持った麻袋に右手を突っ込んでは何かを川に放り込んでいる。
─何を捨ててるんだろう?
訝しげに思った俺は、彼女の2、3メートル手前の歩道で立ち止まったんだ。
彼女の捨てているもの、、、
はっきりとは分からなかったが、その時の俺はそれを【手袋】だと思った。
それ以外もあった。
─どうして、あんな物を川に捨てているんだ?
等と思いながらその様を見ていると、突然未菜は俺の方に顔を向け死んだ魚の目でにこりと微笑んだ。
それが二人の元々のきっかけだった。
後から聞くと、その時未菜は数日前に突然死した彼氏の思い出の品を川に捨てていたということだった。
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車内の会話もいつしかネタ切れし、二人の間に気まずい沈黙が訪れる。
面白かった!
コメントありがとうございます!
─ねこじろう