奇々怪々 お知らせ

不思議体験

とくのしんさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

ついていっても・・・
長編 2023/11/01 13:41 14,847view
8

とある人気番組のプロデューサーから聞いた話。
駅前で通行人に声をかけ、交通費を出すので家に同行させてもらうという番組がある。埼玉某所の駅でディレクターの大山が通行人に声を掛けようと行き交う人を眺めていたとき、ふと中年男性が目に留まった。何の変哲もない男性だが、どこか陰のある寂しそうな風貌に大山は何かを感じた。一言で言えば「訳あり物件」と踏んだのだ。

早速声をかけると帰宅途中だとその男性は答えた。例の如く交通費を出すので自宅に連れて行って欲しいと伝えると男性は二つ返事で了承。男性は番組の事を知っているとのことで、まさか自分に声を掛けて貰えるなんてと驚いたという。タクシーの中で簡単に素性を伺うと、男性は45歳で名前を森田(仮名)と答えた。家族はおらず一人暮らし、仕事は長く会社員をやっていたが現在は無職だと答えた。

タクシーに乗ること30分、時計は23時を回っていた。神奈川県の比較的郊外に位置する閑静な住宅街に森田さん宅はあった。案内された家を見るに築年数はそれなりと見受けられる一軒家。うっすらと街灯に照らされ佇むその家はどことなく森田さん同様に寂しい雰囲気を醸し出していたと大山は語る。

玄関をあがると真っ暗な廊下。森田さんが電気を点けると奥にリビングが見えた。玄関や廊下には物が散乱しており、お世辞でも綺麗とは言えない。まぁ男の一人暮らしじゃ仕方ないか、と大山は思った。

「すみません、散らかっていますけどどうぞ」
そう案内されたリビングもあまり片付いている様子ではなかったが、まずはそこに落ち着いた。

「今はこの自宅に一人でお住まいなんですか?」
「そうです」
「お仕事は今されていないんですよね」

「お恥ずかしながら無職です」
タクシーの中で聞いた話を再度掘り下げていく森田さんの身の上話を聞きながら、ふと彼が座るソファの後ろの壁にかけられた写真に視線を移した。

「これ、森田さんのご家族ですか?」
「そうです。以前は家族もいたんですけどね」
壁にかけられていた写真を大山が眺めていると森田さんがそう切り出した。
写真には森田さんが奥さんと子供と写っていた。子供は男の子と女の子、女の子は森田さんによく似ていた。

「不況の煽りを受けて早期退職を迫られて。退職金上乗せされたけど、なかなか次の仕事が見つからなくて。そうこうしているうちに家族を失ってしまってね」
写真を手に取り森田さんは黙ってそれを見つめていた。

「本当に良くできた妻でした。家のこと任せきり仕事ばかりの私に一度だって文句を言ったことはありません。なかなか仕事が見つからない私に焦らなくていいといつも言ってくれましたし。子供たちも元気で明るくて本当にいい子たちでした」

「今はどこにいらっしゃるんですか?」

「どこか・・・そうどこか遠くに行ってしまった。みんな私が悪いんです。みんな・・全部私が悪いんです」
森田さんは写真を見つめたままそう呟いた。

彼の神妙な面持ちからそれ以上深堀出来なかったが、察するに仕事が見つからない森田さんに家族が愛想を尽かせて出て行ったのだろうと大山は想像した。最初彼を見かけたとおり「訳あり物件」ではあるが、どうにもインパクトが弱かったなぁと大山は思い、森田さんにお礼を言って家をあとにした。別れ際、

「久々に人と話せて楽しかった。本当にありがとうございました。」
と森田さんは深々と頭を下げた。

それから数日後、番組の構成を考える際に撮り貯めた映像を確認していた。森田さんのテープを手にしたが、
“番組的に少し弱いんだよなぁ。尺もあまりないし使わなくてもいいか”
と思ったものの、とりあえず確認することに。映像は駅で森田さんと出会った場面から始まる。タクシーに乗り、会話をしながら自宅へと向かう場面が続く。

「なんだこりゃぁ・・・」

大山が思わず声を出したのは自宅に着いた場面。そこに映っていたのは焼け落ちた廃屋だった。大山は森田さんと暗い廃屋に入っていく。律儀にも玄関と思われる場所で靴を脱いであがっていくのだ。呆然とその映像を見ていると恐らくリビングという場所で会話を始めた。

1/3
コメント(8)
  • 今回も面白かったです!
    確かに地獄、またはそれに準ずるものは意外と近くにあるのかもしれませんね。

    2023/11/02/09:08
  • 洒落怖ビデオレターをとくのしんさん風にアレンジしたらこうなった、って感じですね

    2023/11/02/10:31
  • これだけは言いたいのは・・・私が悪いんであって、家族は悪くありませんから!

    何処かの社長のセリフを思い出しました。

    2023/11/03/02:50
  • 読み応えがありました。
    こんな話し大好きです。

    2023/11/04/11:02
  • とくのしんさんのファンですが、この話も楽しめました。
    ただ、一ヶ所誤字に気付いたのですが、完成な住宅街ではなく閑静な住宅街ですね。

    2023/11/11/08:31
  • 面白かったので怖いに投票。
    怖かった訳ではないけど

    2023/11/15/12:20
  • 作者です。
    久々の受賞作品ということで、たくさんの人に怖いと評価してもらい嬉しく思います。
    なかなかコメント返せず申し訳ありませんでした。
    誤字はこのあとしれっと修正させていただきます(笑)
    もう一つの作品と同時受賞できたので、今月も調子に乗って2本アップしました(笑)
    そちらもぜひよろしくお願いします。

    2023/12/01/09:56
  • かわいそうな話です。涙が出ました

    2023/12/17/23:55

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。