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とくのしんさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

代議士と黒い救急車
長編 2024/07/02 10:07 903view

長年、ある代議士の秘書をやっていた父が亡くなった。その代議士は父が亡くなるずっと前に故人となっているが、若い人でも一度はテレビの報道で耳にしたことがあるような大物議員である。その代議士について多くは語ることができないことと、これから書かせていただく話の節々に、私の個人特定を防ぐためフェイクを入れさせていただくことをまずはご了承頂きたい。父が亡くなる直前に私に語った話をここに書き記していく。

今から40年近く前のこと、父は地元の建設会社の総務課長として勤務していた。都内の大学卒業後、父は地元に戻り地場企業へと就職した。父は真面目な性格で仕事一筋に働いていたそうだ。その甲斐あってか30代半ばには課長へと昇進、その会社では異例とも言える出世頭とあって、裏方のエースとして扱われていたという。

時を同じくして父は社長の紹介で見合いをする。それが私の母になるのだが、当時としては遅い結婚だったものの、仕事一筋だった父にとっては大きな転機になった。結婚後すぐに私を授かり、その2年後には妹が生まれた。子宝にも恵まれ、より一層仕事に邁進していた頃にある事件が起きた。

公共事業を巡る談合に父の勤務先が槍玉に挙がった。父の勤務先を仮にA社とするが、A社は大手ゼネコンとの繋がりが強く、主にその下請けとして事業を請け負うことが多かった。この談合に関しては実はゼネコンが絡んでいたにも関わらず、A社が責任を負う形になったそうだ。

連日、テレビや新聞の紙面をA社の名が騒がせた。その影響で受注も減り、従業員が1人また1人と辞めていく。父もこのままでは家族を養えなくなると退職を考えた。10年以上勤めた会社を辞める決心がつき、直属の総務部長に退職の意思を伝えに行くと話があると会議室に呼ばれた。

会議室には会長、社長と数名の社外の人間、そして例の代議士がいた。社外の人間は繋がりのあるゼネコンの取締役と紹介を受けた。早々たる面々に恐縮していると、社長から会社についての話をされた。会社は一旦倒産させ、その後ゼネコンの子会社として新設会社が従業員含め丸々受け入れる。だから会社については安心して欲しいと説明された。

それを聞いて内心ほっとしていると社長が話を続けた。だが神谷君については新会社ではなく、ここにおられる先生の秘書として引き続き頑張って貰いたいと言った。そんな晴天の霹靂に唖然としていると、代議士が口を開いた。自分の長年勤めていた秘書が退職し、後任を探している。君の優秀さは社長から聞いており、推薦を受けたのでぜひとも私の秘書になってもらいたいと。

聞けば代議士は自分が議員になる以前、自分の父親が代議士の時代からこの会社とは関係があったという。会長と代議士の父親同士は懇意の仲であり、世代が変わった今でも継続している。今回のゼネコンの談合には私の不徳の致すところでもあり、それを社長が被ってくれた。そこで自身が役員に名を連ねるゼネコン社が救済するという。交換条件ではないが、長年勤めていた秘書が辞めてしまい困っているところだ。ぜひとも君には私の下で働いて欲しいと言われたが、こんな話を聞かされてNOとは言えなかった。

そして父は代議士の秘書として新たなスタートを切った。主な仕事は代議士のスケジュール管理が中心となり、各団体との折衝やら仕事は多岐に渡った。時代は昭和、代議士の物言いはそれはもう今では問題になるようなパワハラ三昧だったらしいが、父は仕事もできたことからあまり怒鳴られることはなかったそうだ。それもあってか代議士は父を運転手としても使うことが多かった。

ある日、議員を乗せてとある地方へと赴いた。国政選挙を間近に控えた地方選挙の応援がその理由だ。国政選挙の行方を占う意味でも重要な地方選だけに、党の上役も駆り出された。選挙カーのやぐらから候補者支援を訴える代議士の貫禄というか迫力というか、そういうものに道を歩く人々が足を止めて耳を傾ける様にはさすがだと痛感したそうだ。

演説を終えた代議士にさすがでした、と声をかける父に「当たり前だ。あいつとは貫目が違うからな」と候補者を一瞥したあと、笑みを浮かべて答えたという。それから数日に渡り、候補者支援として支援者・支援団体のもとへ赴いたりと分刻みのスケジュールが続いた。

その日は夜も更けた頃、とある料亭へと向かわされた。営業時間はとっくに終わっていたが、代議士は「少し人と会ってくる。お前はここで待っていろ」と裏口付近に駐車させられた。裏口に入っていく代議士をルームミラー越しに見送り、車の外で待つこと約30分。代議士はゆっくりとした足取りで戻ってきた。代議士のスケジュールは全て把握していたが、このアポは全く聞かされていなかった。

「明日は地元で講演だからな。私は寝るぞ。着いたら起こせ」
そう言いながら後部座席へ乗り込んだ。父は運転席に戻ろうとしたところで自身を呼び止める声がしたという。振り返るとスーツを着崩した男がゆっくりと近づいてくる。

「〇〇先生のお車ですよね?先生が先程そこから出てくるのを見ておりました。どなたとお会いだったのですか?」
その口ぶりから新聞か雑誌の記者だと判断した父は無視するように車に乗り込んだ。と、その男も負けじと運転席の窓に張り付くように質問を投げかけてきた。その質問のなかに例の談合事件に関わるものがあったのを父は聞いていた。

「お会いしていたのは△△団体の代表の■■さんですよね?例の談合事件絡みでしょ?〇〇先生も関わっているんですよね?先生の秘書が自殺したのもそれがあったからでしょ!?」
それを聞いて父は思わず男性の顔を見た。男性と窓越しに目があった瞬間、背後から物凄い圧を感じた。

「出せ」
代議士のその一言に我に返った父は、急いで車を発信させた。父が黙って運転していると代議士が再び

「あんなどこの馬の骨ともわからんヤツを相手にするな」
その一言に父は黙って頷いた。“秘書が自殺している”という言葉が妙に引っかかっていたからだ。ハンドルを握る手にじんわりと汗が滲む。秘書は退職していたと聞いていたが、自殺?△△団体といえば悪名高い政治団体で、建設会社に勤めていたとき何度か耳にしていたことがあった。所謂同和問題に直結する団体で、それを盾に警察も迂闊には手を出せないという噂があった。

「先生、背後から先程の記者と思われる男がバイクでついてきているようです」
父はドアミラー越しに一台のバイクがぴったりとついてくることを報告した。
「くだらん、とっとと撒け」
代議士の指示通り、父は人気のない道を選びスピードを上げていった。
車は廃れた工場地帯を走行していた。廃工場も多くこんな時間ではまず人には出くわさない。普段は滅多に使うことがないが、ここを抜けると地元へは早い。ここで一気に撒いてしまおうと画策した父だったが、同時に運転をしながらこの代議士の持つ闇深さについて色々と勘案していた。秘書が自殺していたという話、談合の首謀者、△△団体との繋がり・・・いつか自分も消される立場になるのでは・・・そんなことを思っていたときだった。

不意に追い越しをかけてきたバイクに気づかずついアクセルを踏み込んでしまった。
気づいたときには遅かった。前に出たバイクに思い切り追突すると、バイクもろとも男性が派手に転がっていく様が見えた。止まった車のヘッドライトに照らされた運転手はぴくりとも動かない。その衝撃に気づいたのか、後部座席で寝ていた代議士が目を覚ました。

「どうかしたのか」
「先生・・・申し訳ありません。事故を起こしてしまいました」
父はそう代議士に答え、すぐに車を降りるとバイクの運転手に近寄った。バイクはカラカラと音を立てながら車輪だけが回っている。それから数m離れたところに男性は倒れていた。ヘルメットは飛ばされたのか被っていない。男性の顔を恐る恐る覗き込むと、それは例の記者の男性であった。頭部からは出血しているのが見て取れたが、声をかけても返事はない。急ぎ代議士のもとへ戻り状況を説明した。

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