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呪い・祟り

件の首さんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

アニマル系
短編 2022/10/16 21:41 2,129view

 同僚の女性が夕暮れ時に社用車で事故を起こし、大怪我を負った。
 私ともう1人で、職場を代表して見舞いに行く事になった。

 病室に通されると、彼女は包帯だらけで、喋る声もかすかだった。
「大変でしたね――」
「……猫の臭いがする」
 彼女はそう言い、怯えた顔になった。
「帰って! 近寄らないで!」
 会話らしい会話にもならず、結局ナースステーションに引き返すしかなかった。
 看護師によると、全てを猫に結びつけて異常な恐怖心を抱いているとの事だった。
 その後治療は終わり退院は出来たものの、障害が残った彼女の職場復帰は絶望的だった。

 同じ頃、労災認定のため、社用車のドライブレコーダーが確認された。
 そこに、事故の瞬間の映像が残っていた。
 暗い道路を走る映像。
 街灯が途切れひときわ暗くなった時。
 無数の光る点が闇に現れた。
『しつこいぞ、猫ども!!』
 彼女の怒鳴り声が記録されていた。
 そしてほとんどベタ踏みにアクセルが踏み込まれた。
 コンマ5秒もしないうちに、社用車はガードレールを乗り越え、用水路の底に激突していた。

 他の同僚から、幾つかの話を聞いた。

 彼女は捨てられていた病気の猫を拾って、育てるという動画で、それなりに収益を得ていたそうだ。
 しかし、これにはかなりの「演出」が加わっていた。
 猫はペットショップで買ったもので、拾う場面も病気も自作自演だった。そして、仔猫の時期が終わると、「里親」に譲って次の新しい仔猫を入手していた。
 「里親」役で動画に出た同僚もいた。

 あの道は、用水路に直交するため、夜間は特に事故が多かった丁字路だ。
 近所の人達が気を利かせて、ガードレールにいくつかの自転車用反射板を付けていた。
 それを猫の目と見間違えたのだろうか。
 それとも、不本意な一生を終えた猫の怨念が、彼女の感覚を一層鈍らせていたのだろうか。
 さもなければ、彼女に懐いて捨てられた猫が、ただ主恋しさに近付いただけか。

 真相は分からない。

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