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意味怖(意味がわかると怖い話)

件の首さんによる意味怖(意味がわかると怖い話)にまつわる怖い話の投稿です

氷の下
短編 2022/11/16 23:49 2,291view

 20年ぶりに冬に里帰りをした私は、久々に車でその湖にやって来た。
 当時、こんなに車道に雪がなかった気がする。自然の湖でスケートが出来たのだから、思い込みでもない筈だ。
 森が終わると、雪にすっかり覆われた湖が広がっていた。
 私は、湖の畔で自動車を停めた。
 筈だった。

 みしり、と音がしたかと思うと、車が傾いた。
 エンジンをかけ、バックしようとする。
 だが、アクセルを踏んでも手応えがない。
 車は後部座席側を下に、垂直になっていく。
 沈んでいる。
 雪に覆われた氷が割れたのだ。
 こんなところまで水が来ていたのか。
 後部座席の窓の外はもう水中だ。
 運転席のドアを開けようとする。
 開かない。

 大きな音がして、後部座席の窓ガラスが割れ、水が流れ込み始めた。
 一層早く車が沈み始める。
 ドアが開かない。
 そうだ、割れて水圧の差がなくなれば開く。
 息を思い切り吸い込んで、ドアの窓を蹴り破った。
 同時に水が一気に車内に流れ込む。
 ドアレバーに手をかけると、あっさり開いた。

 車外に飛び出す。
 水の温度は氷とほとんど変わらない。身体が縮こまっていく。
 上に泳ごうとするが、方向感覚が一瞬分からない。
 頭が湖底に向いているのに気づき、何とか頭を湖面方向に向ける。
 雪もそれほど厚くはないのだろう。上全体に明るさがある。
 上へ泳ぐ。
 泳ぐ。
 服がまとわりついて重たい。

 泳ぎつつ服を脱ぐ。
 どんどん体温が奪われていく。
 呼吸が限界になっていく。
 光が、ようやく近付いて来た。
 近付いて、さらに寄って、そして。
 固いものに触れた。
 氷だ。
 氷に覆われている。
 光がより強い場所が見えた。
 落ちた割れ目だ。
 全力で泳ぐ。
 光が強くなっていく。
 そうだ。
 もうひとかき。
 指先が水から出る直前。

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コメント(1)
  • ご冥福をお祈りします。

    2022/11/17/21:04

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