付き合いきれない

よくよく耳を澄ませて聞いてみると、その声はぼそぼそとした小さな声で「付き合いきれない」と呟いているのです。

私はこの言葉を聞き取ったときに、背筋が凍りました。

その言葉に覚えがあったのと、死んだ元カレの声そっくりだったからです。

「付き合いきれない、付き合いきれない、付き合いきれない」と相手は電話で繰り返しており、私は怖くなって電話を切りました。

そしたらまた同じ非通知からかかってきたので、思わず電源を落としてしまいました。

その日はなかなか寝付けず、怖かったです。

後日その話を友達の1人にしたら、とても心配されました。

どうやら私が病んでいると思ったみたいです。

「元気を出してほしい」という理由で、お友達数人で居酒屋に集まったのですが、私はその居酒屋でまたも怖い思いをすることになるのです。

急に友達の一人に、「昨日、元カレに会った」という話をされました。

最初はどの元カレと分からず話を聞いていたのですが、お気に入りの車の話をされて「アレ？」と思いました。

だって今まで付き合った元カレの中で、車が好きという彼は亡くなったその人だけだったからです。

「ちょっと待って」と私が、元カレが死んだ話をすると、「何言ってるの？」と笑われました。

そのとき、居酒屋に誘っていた友達のもう一人が「何騙そうとしてるのよ。私も会ったよ。」と言ってきたからです。

私はそれを聞いてぞくぞくしました。

同僚がお葬式も参加しているのに、彼が生きているわけないのです。

でも友達らは口をそろえて、私をよろしくと言っていたと言っていて、さらなる恐怖を感じました。

それから数週間後に、私は趣味で通っていたジムのトレーナーに告白され、お付き合いを始めました。

ここ数日、元カレのことでホラーな体験を幾度もして、心が弱っていたというのもあります。

私は彼とお付き合いすることになりました。

しかし、付き合ってから数日して、彼が突然別れを切り出してきたのです。

私はだいたい別れを切り出すほうで、切り出されたことが少なくて、困惑しました。

別れの理由もよく分からなかったからです。

そしたら彼がなんと言ったと思いますか？彼は私に「もうお前には付き合いきれないよ」と言ったのです。

私が「え？」と聞き返すと、突然彼が急にぼそぼそつぶやき始めました。

怖くて後ずさると、「付き合いきれない、付き合いきれない、付き合いきれない」とまるであの日の電話のようにその言葉を繰り返し言い始めたのです。

そう言いながら近づいてくる彼の顔が能面すぎて怖すぎて、私は必至で走って彼の家から逃げ出しました。

彼に付き合って数日で別れを告げられて、困惑しかしていなかったです。

後日私は、同僚を誘って元カレのお墓参りに行きました。

許して欲しかったというのもありますし、どうにかしなければ、この怪奇現象が終わらないと思ったからです。