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心霊

砂の唄さんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

Tホテル
長編 2022/02/06 23:17 28,281view
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 中はホコリっぽい以外、やはり荒れた様子はなかった。部屋の真ん中のあたりにテーブル、そして倒れた椅子が何脚かあった。四角い箱のようなものもあり、よく見てみると古いテレビだった。恐らくここはリビングだったのであろう。だとするとここはコテージだったのだろうか?
 部屋には数枚新聞紙が落ちていた。汚れている上に破れていて日付はわからなかったが、その古さから20~30年はたっている気がした。新聞紙の近くには菓子パンやお菓子が入っているような大きさの袋もいくらか散らばっていた。袋をたどると部屋の端のほうにごみ袋が一つあって、そこから同じような袋がたくさんこぼれていた。印刷がもう色あせていて確かではないが、ウインナーやハンバーグが入った袋のようだった。「肉好きすぎるだろ」私はCに冗談っぽく言ったが、Cは笑わなかった。

 奥のほうを見に行こうとしたとき、2階から悲鳴が聞こえた。私はCを引き連れ玄関へと戻り、階段を駆け上がった。
 2階にたどり着くと同時に感じたのは、猛烈な寒気。気温や湿度のがどうこうではなく、風邪をひいたときに感じるような悪寒に似た寒気であった。Cも同じようにこの寒気を感じているようで少し体が震えている。
 2階の突き当りからAとBの声が聞こえた。突き当りには部屋があるようで、そのドアの前にAとBがいた。Bの様子は遠目から見ても明らかにおかしく、体をくねらせながら意味の分からないことをわめいていた。ともかく2人に駆け寄る。
「そこの部屋のドアを開けたら、BがBが…」Aもまたそれを繰り返すばかりで冷静さを失っていた。Aの言う部屋のドアは閉まっていたが、今この部屋のことをどうこう探るのは得策ではない。
 震えているCを呼び寄せAと一緒にBを担ぎ出すようにして1階まで連れてきた。1階まで来るとさっきの悪寒は不思議と消えていた。急いで玄関へ走りこの建物から逃げるように飛び出した。

 外に飛び出すとAは多少落ち着きを取り戻したようであるが、Bは相変わらず半狂乱で何か独り言をつぶやいている。
「おい、これどうする。救急車呼ぶか?」Cはスマホを取り出しながらAに尋ねている。
私はBを介抱するように肩を貸していたが、AはCの話を聞かずにどこかへ電話をかけていた。
「あぁ叔父さん。大変なんだ。今Tホテルの近くの建物に入ったら…友達が…うん…わかった、今から行く」電話の相手はこの建物の話をした叔父のようだった。
「今からBを連れて叔父さんの家に行く。運転は俺がするから2人はBを頼む」そう言うとAは車へ走って行き、私とCはBに肩を貸しながら駐車場のほうへ向かった。

 そして全員で車に乗り込み、そこからは可能な限りスピードを出してAの叔父の家へと向かった。

 この時、私はあるものを見た。建物から駐車場へ向かう途中、うっそうとした木々の中に人影のようなものがあったのを。一度視界からその姿を消し、もう一度その方向を見たが、それは確かにそこにいた。何度やっても同じで人影はずっとそこにいたのである。
 それは子供ぐらいの大きさだった気がする。動物ではなく、確かに人であったはずだ。サルやクマならあんなに姿勢はよくないだろう。それは私たちの向かう駐車場と真逆の方向、つまりあの建物の方向に向かって動いていたような気もした。しかし私は、あぁ、あれは立ち止まってこっちのことを見ているんだなと、なぜだかそう思った。
 私はこの人影のことを車の中でAとCには黙っていた。この発見は無用の混乱をうむに違いない。建物の部屋を開けた瞬間半狂乱になった友人。森の中にいた人影のようなもの。これがどう関係しているというだろうか?

 何時間たったかはわからないが、車は目的地に到着した。
 叔父さんの家の前には車が1台泊まっていて、静寂の住宅街の中で唯一明かりがともっていた。この時Bは眠っている、というよりは気を失ったような状態で車の中で横になっていた。呼びかけても起きないので仕方なくBを車に残し、3人で玄関のほうへ向かった。インターホンを押し、ドアが開くと浴衣を着たAの叔父と思われる人物と60代くらいの眼鏡をかけたヒョロヒョロとした男が立っていた。
「それで、おかしくなったのは誰よ?」眼鏡の人物は我々に問いかけた。
「車で寝てます」Aが答える。
「それじゃあKさん。車のその子を見てきてくれますか。3人はとりあえず居間にあげましょう。」Aの叔父は口を開いた。
 Kという人物は無言で玄関を出て、車へと歩いて行った。
 私たちは居間へと案内され、用意されていた座布団に座った。Aの叔父は煙草に火をつけ、ソファに腰掛けた。
「叔父さん、Bはどうなるんだよ?。あそこって何なんだよ?」Aは今まで抑えていたものを吐き出すように問いかけた。

「まぁちょっと待ってろ」Aの叔父はそう一言だけ言った。しばらくするとKが戻ってきた。
「どうですか?」
「生きとるのは専門外だ。よくわからんね。とりあえず本部に連絡しといたから、もう少ししたら迎えが来るよ」そう言うとKも煙草を取り出し、火をつけソファに腰掛けた。

「お前たちに紹介しよう。この人はKさん。私が警察で働いていた時から色々とお世話になっていた人だ。一言でいうとだな、霊能者ってやつだ。」Aの叔父は眼鏡の男のことをそう紹介した。
 霊能者?そうみんな思ったはずだが、誰も聞き返さなかった。
「しかし、馬鹿だねあんたら。どんなに鈍感でもあそこはやばいところだってわかるでしょうに」Kはそう言うと笑った。
 私たちは黙ったままだった。
「まぁやってしまったものはしょうがない。だがな、君らには今日のことを口外しないようにしてもらいたい。あそこのことがいろいろ広まるのは非常にまずい。」Aの叔父が話しを続ける。  
「ただ、あそこがどういうところなのかは教えよう。もとはといえば私が喋ってしまったことが原因だからな。だが、さっきも言ったようにあそこのことは口外しないように」一呼吸おいてAの叔父は話を続けた。
「あそこはTホテルのオーナーの別荘だった建物だ。」
「すると、そのオーナーの霊が出たとか?」Aが恐る恐る聞いた。
「いやーあそこのオーナーは金持って逃げたんだ。Tホテルが廃墟になったのもそれが原因だ。そもそもあそこで事件や事故なんて起きてない。Tホテルに幽霊が出るというのは警察が意図的に流した噂話だ。肝試しに来た連中があそこに行かないように、Tホテルだけに関心を持つようにするためにな」

3/5
コメント(2)
  • 面白かったです
    Tホテル、何処だろう。気になる。

    2022/02/07/12:25
  • ってことは「私」が見た子供って…

    2022/08/29/18:55

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