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ヒトコワ

砂の唄さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

ある未解決事件について
長編 2023/04/15 15:25 13,771view
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みなさんは未解決事件という言葉をご存じだろうか?文字通り犯人が逮捕されずに時効を迎え、解決しなかった事件のことだ。殺人、行方不明、強盗、偽札など多岐にわたるが、やはり一番多いのは殺人事件だろう。手口が猟奇的であったり、状況があまりに不可解であったり、不気味な目撃情報があったりと未解決事件は色々な要素を持っている。我々は犯人に憤りを覚えると同時に、どこかドラマのように事件を楽しんでいる、そういう両側面があることを否定できないだろう。

今回は私の知っている、ある未解決事件を紹介しようと思う。初めに断っておくが、これは1970年代の事件で、今から50年近くも昔に起こったことだ。私も人づてにこの事件を聞いたので正確でない部分が多い。そのため、全ての人名、地名、団体名は仮名で表記する。なにも私は事件解決の手助けをするためにこの話をするのではない。人間の持つ底知れぬ悪意、私はそれだけをお伝えしたいのだ。

事件が起こったのは、A県のとある地方都市であるS市だ。S市の中心街には、この周辺では一番の規模を持つHデパートというデパートがあった。休日ともなれば近隣の市町村からも多くのお客さんが訪れる人気の場所だ。しかし、事件の起こった日は水曜日で、それほどお客さんはおらず、開店直後の午前中ということもあって店内は閑散としていた。

開店から1時間が過ぎた午前11時、A子さんは1階の総合案内所にいた。彼女はまだ経験が浅く、一緒に働く先輩のM子さんが他の階に出かけていたこともあり、何となくそわそわしながら受付に立っていた。そんな時、総合案内所に一人の女性客が駆け込んできた。その女性はピンク色のワンピースを着ていて、長めのスカートを履いているように丈が長か
った。化粧が濃かったが年齢は60を超えていただろうとA子さんは話している。

ピンク服の女性は息を切らしながらA子さんに駆け寄り「大変なのよ、大変」と訴えかけた。A子さんが「どうしたんですか?」と聞いても、興奮した様子で「とにかくこっち来て」を繰り返すばかりだった。

ピンク服の女性に半ば強引に引っ張られ、A子さんは一階の女子トイレへ連れてこられた。そのトイレはエレベーターホールの近くにある狭い通路の中腹にあり、A子さんとピンク服の女性以外には誰もいないようだった。A子さんはそのままトイレ内に連れ込まれ、入り口に近い個室の前に案内された。ピンク服の女性はびくびくしながら「ここよ…」と指を指した。A子さんは戸惑いながらもそのドアを開いた。

そこにはトイレの床にうつ伏せで倒れている女の子の姿があった。皮膚の色が青白く、身動き一つしないので、死んでいるのだとA子さんは直感した。A子さんはエレベーターホールまで走っていき、大声で人を呼んだ。すると、声に気が付いた靴売り場の店員が3人駆けつけてきた。A子さんが「女子トイレで人が死んでいます」と錯乱しながら告げると、やってきた3人はすぐに女子トイレへと走り、少しして売り場の主任だったKさんが戻ってきた。KさんはA子さんにすぐに緊急放送をかけ、事務方へも連絡するように指示をだした。

A子さんが案内所へ戻ると先輩のM子さんが戻って来ていた。M子さんは案内所を無人にしたA子さんを注意しようとしたが、取り乱すA子さんから事情を聴くと、それどころではなくなった。M子さんはすぐに緊急事態を告げる館内放送の準備をはじめ、A子さんにも事務室へ電話をするように指示した。

店内は慌ただしくなり、普段は事務室にいるN部長が案内所へ走ってきた。N部長は「客がパニックを起こす可能性があるので、今日はこのまま臨時休業にする。そのアナウンスをしてくれ」M子さんにそう指示した。

この対応は後々、マスコミから槍玉に挙げられることになる。その女の子を殺害した犯人はまだデパート内にいたかもしれないのに、その犯人をみすみす逃がしてしまったという批判だ。確かに警察が到着した時には、デパート内にいた50人近いお客さんの約7割は既に店外へと出てしまっていた。そして、警察は残っていたお客さんから何ひとつ有力な情報を得ることが出来なかった。

事務室から通報を受けた警察がやってきて、第一発見者のA子さんに話を聞きに来た。A子さんは「第一発見者は自分ではなく…」と言い出したところであのピンク服の女性を思い出した。警察にそのことを話したが、現場付近にはデパートの従業員しかおらず、ピンク服の女性はいつの間にか姿を消していた。

さて、現場の様子だが一階の女子トイレには個室が6つあった。入ってすぐ左に手洗い場があり、少し奥に左右3つずつの個室がある。女の子が死んでいたのは右側、一番手前の個室だった。個室の中には争った形跡がなく、タンクの上に積まれたトイレットペーパーの予備は一つとして床に落ちていなかった。壁やドア部分にも真新しい傷やへこみは見られず、床にも目立った痕跡はなかった。もっとも、この個室には遺体発見後、多くのデパート従業員が立ち入ったため痕跡が消えてしまったという指摘もある。

女の子の年齢は4~7歳くらい。服装は白いブラウスに赤いスカートと普段着ではないお出かけ用の服装だと思われていた。その衣服にも乱れた様子はなく、やはり争った形跡はないようだった。靴は両方履いたままで、タンクの下に小さい子供用のリュックが置いてあったが、他に持ち物らしきものは落ちていなかった。

女の子の首には紐のようなもので絞められた跡があり、死因はすぐに見当がついた。殺害に使われたと思われる紐状のものはトイレ内では見つからず、デパート内のごみ箱などをくまなく探したが見つかることはなかった。また、後の検死の結果、首の絞殺跡以外には暴行された後はなく、性的暴行の形跡も見られなかった。

当初警察は、女の子がデパート内で連れ去られ、そのままトイレで殺されたと考えていた。そのため警察はデパート内での迷子情報を聞き取ったが、その日迷子になった子供は一人もいない。警察は署の方にも迷子の通報がないか問い合わせたが、行方不明になった子供は一人もいなかった。

女の子の身元が判明したのはその日の午後6時だった。浜野と名乗る男性から「家で留守番をしているはずの娘が家におらず、預けていた人とも連絡が取れない」と警察へ電話があった。警察はその女の子の特徴が昼間のデパートの女の子と似通っていることに気づき、浜野さんを署に呼んで確認してもらった。その結果、デパートで死んでいたのは浜野さんの娘であることが分かった。

浜野義男さん36歳は妻の安子さん32歳と娘の雪子ちゃん5歳の3人家族で、S駅に程近い一軒家に住んでいた。雪子ちゃんは幼稚園や保育園には通っておらず、普段は安子さんと一緒に自宅で過ごしていた。

事件当日、義男さんの勤める建設会社、N建設でビルの完成セレモニーがあった。出席予定の上司に急な不幸があり、急遽義男さんがそのセレモニーと午後からのパーティーに出席することとなった。各方面から人が来るので、安子さんも同席するよう求められていた。

そのため、その日は雪子ちゃんを近所に住む橋本さんに預かってもらっていたのだという。橋本さんは同じ町内に住んでいるおばあさんで、公園で転んだ雪子ちゃんを居合わせた橋本さんが手当てしてあげたことをきっかけに仲良くなったらしい。そこから交流が始まり、橋本さんは雪子ちゃんを孫のように可愛がっていた。安子さんが多忙な時は公園で一緒に遊んだり、二人で散歩に出かけたり、橋本さんが雪子ちゃんと二人だけで過ごすこともよくあった。その延長線で過去に数回、橋本さんに雪子ちゃんを預かってもらうよう頼むことがあったのだという。

橋本さんが以前看護婦として働いていたこともあって、特に不安なこともなく、雪子ちゃんも橋本さんによくなついていて嫌がる様子もなかった。今までの預かりでトラブルと呼べるようなものは皆無だったという。手土産程度のお礼も渡していたし、一方的な関係ではなかった、義男さんも安子さんもそう話していた。

事件前日の夜、急に出席が決まったため、義男さんは夜の9時ごろに橋本さんへ電話をした。突然のことだったが、橋本さんは快諾してくれたと義男さんは証言している。当日、朝7時半に橋本さんが浜野さん宅を訪れ、義男さんと安子さんは朝8時に家を出発した。

浜野さん夫妻が夕方6時に家へ戻ると、家の電気が消えていてチャイムを鳴らしても橋本さんが出てこない。鍵はかかっておらず、家の中には誰もいなかった。安子さんは橋本さんの家へ行ってみたが、こちらも電気が消えていてチャイムを鳴らしたが誰も出てこなかった。念のため近所を探してみたが、橋本さんと雪子ちゃんの姿はどこにも見当たらない。どうしようもなくなり、警察へ電話したのだという。

夜8時ごろ、浜野さん夫妻から事情を聴いた警察は橋本さんの家へ向かっていた。警察が到着した時、橋本さんの家には明かりがともっており、屋内には誰かがいるようだった。チャイムを鳴らすと家の中から高齢の女性が出てきた。警察が氏名を確認すると、その女性は「橋本たえ子」と名乗り、浜野さん夫妻の言っていた橋本さん本人だった。警察は単刀直入に雪子ちゃんの死を伝え、橋本さんに今日の足取りを訪ねた。橋本さんは大変に驚き、誰も予期していなかった答えを返した。「今日はお友達とボーリングに行っていました」

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コメント(9)
  • 警察も踏み込めない組織や暗黙のルールが存在するのは知っていますが、まだまだこの国は闇が深い部分を秘めていますね

    2023/04/15/17:34
  • 警察は何のためにあるのかわからなくなりますよね。

    2023/04/16/02:18
  • 電話の証言の食い違いについてはなんで通話記録を調べないんですかね

    2023/04/16/23:00
  • 最初の女も、死んでた子もワンピースの上からスカート履いてたんですか

    2023/04/17/05:22
  • 2ページまでは緊迫感のある文章で、グイグイと引き込まれたが、最後に突然腰くだけになって脱力。それと投稿者はワンピースとはどういう衣類なのか一度確認したほうがいい。

    2023/04/20/02:43
  • 「ボーリング」って、穴掘りだよね。

    2023/04/23/21:38
  • 服装直したんですね

    2023/04/30/18:50
  • これ実話ですか?

    2023/06/05/17:04
  • 面白く読ませて頂きました。
    でも突っ込みどころがたくさんありますね。

    2023/12/02/05:21

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