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ヒトコワ

砂の唄さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

怨嗟
長編 2022/06/13 19:26 35,971view
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 これから話すのは3年前にあったことだ。
 その時私は会社を辞めて、アパートで一人なんとなしに暮らしていた。病気や事故にあったというわけでもなく、当面暮らしていく貯えもあったため、とにかくふらふらと暮らしていた。

 そんな時、旧友であるMから連絡が来た。Mからの連絡は不定期で、内容は大抵飲みに行こうとか遊びに行こうとか、たいしたものではなかった。Mはしょっちゅう転職をしていたため今回も転職して落ち着いたから連絡をしたのだろう。数日後、Mと私は居酒屋で会い、色々な話をした。案の定Mは3か月くらい前に転職をしていて、今は小さな映像制作会社で働いていた。私が今無職であることを伝えると、Mは私にこんな話をしてきた。

 会社で動画共有サイト向けに心霊番組を作ることになって、俺はある廃墟を撮影することになった。そこがとんでもなく遠いうえに、予算も人員もないので俺一人で行かなきゃいけない。撮影自体は一人で出来るが、手伝いが欲しい。よかったら一緒に行って手伝ってくれないか?もちろんお礼はするから。

 その時私もMも酒を飲んでいたので、私は「また今度話を聞くから」とMに話をしてその日は別れた。数日してMがメールで日程など詳しいことを送ってきた。まとめると

・その廃墟は〇県の端のほうにある××村。車で片道8時間くらいかかる。車は社用車を使い、運転も全部Mがする。
・スケジュールは1日目、朝6時に出発、21時頃から1時間位廃墟内の撮影。2日目、9時から廃墟の周辺や村の様子を撮影、11時には村を出発。
・仕事は1日目の撮影のサポート。姿や声が動画に映りこむことはない。
・お礼は2日で2万円

 私は片道8時間で悩んだが日給につられて引き受けることにした。

 その日はとても天気のいい日だった。Mは時間通りに古びた車で迎えに来て、私は助手席に乗りこんだ。それからは8時間の長旅が続いたが、道中私はMにその廃墟について尋ねた。Mは「幽霊が出るらしいが、上司から行って来いと言われただけだからよくは知らない」と答えた。歯切れの悪い言い方だなと思ったが、こういう番組制作の裏側はあまり話してはいけないのだろうと解釈し、特に気にはしなかった。

 まだ日が高い時間に、車は件の××村と書かれた看板をちらほら見かける辺りまで来ていて、16時くらいに私たちは××村に到着した。窓から村内を見ていると、下校途中らしい子供達が見えたが、大人はあまり歩いていないようだった。

 車は一軒の家、というより屋敷と呼んだ方がいい大きな家の前で止まった。Mが車から降りると私も後に続き二人でその家の玄関へと向かう。チャイムを鳴らすと品のよさそうな中年の女性が出迎えてくれた。
「こんにちは。〇○映像のMと申します。今日はお世話になります」
「遠いところからご苦労様です。今父を呼んでまいりますので、少々お待ちください」
 そういうと女性は一度家の中へ引っ込んでいった。顔立ちが美しく、着ている服も上等で、金持ちの家だなと私は思った。しかし、その女性が何となく顔色が悪い、というより浮かない表情をしていたのが私は気になっていた。

「いやいや、遠路はるばる。お疲れでしょう?」
 家の奥から浴衣を着た70代位の男性が姿を現した。猫背ではあったが、身なりがしっかりしていて、高い地位にいる人間だとすぐにわかった。
「私が××村の村長、Yと申します。××村へようこそおいでくださいました」
 村長は朗らかな顔でMの近くにやってきてMの手を両手でぎゅっと握り握手をした。村長は握手を交わしながら私の方を一瞥する。

「失礼ですが、こちらの方はどなたでしょう?」村長はMに質問した。
「紹介が遅れてすいません。こっちは私の助手です」
 私は頭を下げ、よろしくお願いしますと一言挨拶をした。
「そうでしたか。そうでしたか。あなたも遠くから大変でしたでしょう」
 村長は同じように朗らかな顔で私の手をがっしりと掴み握手をしてきた。その手はあたたかかったが、握る力は恐ろしく強く私はこの老人に何かアンバランスなものを感じた。

「それで、今日の撮影は何時から始めるのでしょうか?」
「これから準備をして、9時から始めるつもりでいます」
「そうですか。そうですか。それまでゆっくり休むといいですよ」
 村長はそう言うと家の奥の方へと戻って行った。

 私達は先ほど出迎えてくれた女性、村長の娘さんに広い和室へと案内された。
「こちらのお部屋をご自由にお使いください。お食事は7時以降でしたらいつでもご用意できま す。何かご用の場合は私に申し付けてください」
 それだけ言うと娘さんは先程の村長と同じように家の奥へと引っ込んだ。ややぶっきらぼうな言い方も気になったが、私はやはりその何となく浮かない影のある表情の方が気になっていた。

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コメント(1)
  • 素晴らしい

    2022/06/14/13:17

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