とある外国人の末路

数年前に私が体験した修羅場。マンションから駅までは徒歩15分程と立地は良くないが、間取りと安さが気に入って入居してから半年が過ぎた頃。帰り道に外国人を見かけることが多くなったなぁと思うことが増えた。主に東南アジア系で、そっちの人が別に珍しいわけではないんだけど、やたらと見かけるようになって少し警戒していた。

差別とか偏見ではないけれど、向こうの人って色黒でちょっと怖い感じするじゃないですか。なんか人のことをジロジロと、言い方悪いけど舐め回すように見てくるような感じがした。そんなことが続いたある日、マンション近くの路地で外国人が蹲っていた。外灯の明かりにぼんやりと照らされたその人は頭から血を流して苦しそうにしていた。

そのまま素通りしようかと思ったんだけど、家系なんですかね･･･お母さんもおばあちゃんも困っている人を見捨てておけない性格で、私もそれに負けず劣らずのお節介な性格がそれを許さなかったというか邪魔したというか。気が付いたらその人に声をかけていた。幸いカタコトの日本語が通じた。ハンカチを渡して頭の傷を抑えるよう言えば、「ダイジョウブ、ヨゴシチャウカライイデス」と返してくる。「そんなの気にしたらあかんよ！」とハンカチを無理やり押し付けて、自販機で水を買ってきてもう一枚のハンカチに含ませて顔を拭いたあと残りを飲ませた。救急車を呼ぶという私に、オカネナイカラと頑なに拒否。アリガトアリガトと言いながら千鳥足気味に暗い路地に消えていった。

それから1週間くらいして、そこの路地を通っていたらマンション手前にハイエースみたいな車がエンジンかけたまま止まっているのが見えた。あまり人気のない通りだしなんかいやだなぁと思いながら歩いていると、急に強い力で腕を掴まれ路地に引きずり込まれた。叫ぶ間もなく口を抑えられて、暴れたんだけど振りほどけなくて。あぁこのまま乱暴されて殺されちゃうのかなって思ったら、ぶわっと涙が溢れてきて力が抜けた。もういいや、好きにしてくださいと抵抗を止めてへたり込んだ。それで相手に視線を移したら先日助けた外国人だった。

自分の口の前で人差し指を立てて、シーッと声を出すなと合図してくる。私の泣き顔を見て「オドロカセテスミマセン」と謝ってきた。私がなんでこんなことするのよと聞き返すと

「アノ先ノ車、ワタシノナカマ。アナタサラオウトシテタカラタスケマシタ」

って言うのよ。何が何だかわからなくて「はぁ？」みたいな顔をしていると、その外国人は説明を始めた。実はその外国人は人攫いのグループの一員で、私に目星をつけていたらしい。

先日も実は私を攫うつもりで待ち構えていたら、通りがかった別の外国人数人といざこざになってリンチにあった。そこに私が通りがかって助けたというのが顛末だとか。

「アンナニヤサシクシテクレタノハウマレテハジメテデス。ホントウニウレシカッタ。ダカラアナタヲタスケタイデス」

そう彼は言った。でもそんなことしたらあなたが狙われちゃうんじゃないの？と聞き返すと、彼はニッコリ笑って別の道を指さして私を逃がしてくれた。少し広い通りに出たあとタクシー拾ってその日は友達の家に泊めてもらったんだけど、翌日私の近所で身元不明の外国人が殺されたってニュースが流れてた。彼だとは思いたくないけど、何となく彼なんじゃないかと思った。あのとき彼が見せた笑顔を思い出したら涙が零れた。怖い思いをしたけど、あの笑顔は一生忘れないと思う。今はマンション引き払って実家に戻りました。あれから特に身の回りで何か起きたとかはありません。