だって笑っていたし

だが、Ａは
「それは違うだろうな」
と思ったそうだ。
恐らく奥様は寝たきりの義母と仲が良くなくて、
介護を疎ましく思っていたか、それで介護をおろそかにした。
それで義母の死後になって自虐的な強い反省の念にとらわれ自殺したか、
あるいは・・そのように奥様にしいたげられた義母が

死後に幽霊として奥様に付きまとい、旅先にまで現れたので
奥様は恐怖にかられて飛び降りたのではないか、
そう思う、とＡは言った。

私は、嫁と姑とか色々あるかもしれないが、奥様の自殺と義母の死は
無関係なのでは、とＡに言ったが、
そうは思えなかったから、とＡは言った。

実はＡはいわゆる「見えてしまう人」で、

あの夜以来、奥様が身を投げたという部屋に行くたびに
老女の幽霊を見てしまうようになってしまった。
その部屋の窓際に立ち、階下を見下ろしながら
薄笑いを浮かべている老女の幽霊を。

それを見てしまうのが嫌になって仲居を止めて、
今はスナックのママをしているのよ、とＡは言った。