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不思議体験

とくのしんさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

視える叔母さん
長編 2023/09/04 17:29 10,395view
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それから半月も過ぎた頃に、木田が無断欠勤をした。俺が知る限り、木田は一度も仕事を休んだことがない。遅刻すらなかったヤツが無断欠勤・・・これは何かあったのだろうと、俺は仕事帰りに木田の家に向かった。

木田から聞いていた話では叔父と一緒に住んでいるということは聞いていた。木田は小学生の頃に、両親を亡くして以来、叔父が面倒を見てくれたそうだ。同居した頃は酒癖も悪く、賭け事で負けると木田にあたることもあったらしい。しかし、その叔父は事故で両足が不自由になってからというもの、まるで人が変わったようにおとなしくなってしまったそうだ。

木田の家は2階建ての古臭いアパート。そこの103号室に木田は住んでいると言っていた。しかしそこには木田もその叔父という人もいない。隣の部屋の住人に尋ねてみるが、ここ数日物音すらしないそうだ。悪いとは思ったが、ポストを見ると一通の封筒があった。それは俺宛ての封筒。しかし何故か俺はその場で封筒の中身を見る勇気が出なかった。こういうときに頼れるのが叔母の高島礼子だ。

俺はバイクを飛ばし、高島礼子の店に向かった。店に入るや否や、俺の顔を見た途端に「やっぱり来た」と呟いた。俺が事の説明をしようとすると
「木田くんのことでしょ。彼、もうこのあたりにいないと思うわよ」
高島礼子は何かを察していた。

「俺宛ての封筒があったんだけどさ!」
封筒に3枚の便箋が入っていた。1枚目には俺への感謝の言葉が綴られていた。
両親を失ったあと、親戚をたらい回しにされたこと。学校にもろくにいけず友達なんてできたことがなかったこと。叔父が面倒見てくれたが、最初は辛いことばかりだったことなどが書かれていた。

「彼、本当に苦労したのね」

手紙に目もくれず、タバコを吹かしながら高島礼子は呟いた。

2枚目に行くと、両親が亡くなった原因が書かれていた。
両親は誰かに殺されたこと、そして家に火を放たれ全焼したことが冒頭に綴られていた。警察の調べでは強盗殺人による放火だったことがわかっている。しかし、今現在も犯人は捕まっていないという。

「彼が夢で辿り着いた先はね・・・真実なのよ」
俺が手紙を全て読む前に高島礼子が妙な言い回しをしてきた。ネタバレをされたような気分になり少々イラっとしたものの、それがピタリと当たるから反論のしようもない。そう、そこには全て書かれていた。

玄関のドアを開けるとかつての日常がそこにはあった。玄関を進むと優しい父と母がリビングに立っていた。懐かしさを噛みしめる間もなくそこに目出し帽を被り包丁を持った強盗犯が入ってきた。犯人と父が激しくもみ合う中で、父が包丁で刺された。何度も何度も・・・馬乗りになって動かなくなるまで刺された。そして母も背中を一突きされたあと、首を絞められ殺された。
犯人は部屋を回り物色する。金目の物を持っていたバッグに入れると、ガス台に向かった。コンロに火を点けると、新聞や洋服に次々と火を点け部屋に放った。燃え盛る炎と父と母の遺体の横で、犯人は目出し帽を取った。俺は夢の中で犯人の顔を見た。

それは・・・。

「木田くんの叔父さんでしょ、そこに書かれているの」
その一言に俺は戦慄した。

「なんで・・・わかるんだよ叔母さん」
「実はね、気になって何度か彼を占ってみた。彼には人に話せない過去があるって言ったでしょ?それが気になってね。何度か占っていくと彼が幼少の頃に両親を亡くしたのが視えた。でもそのときはさすがに犯人が誰かなんてわからない。それからも悪いとは思いつつも興味本位で何度も占った。そして最後に車いすの男性を連れてどこかにいるのが視えた。ここらへんじゃないどこか遠く・・・あんたから聞いていた話で彼の叔父さんの足が不自由だと聞いていたからね。何となくわかったのよ」

3枚目にはこう綴られていた。
“叔父に夢の話を問いただすと、驚くほどすぐに叔父は罪を認め告白を始めた。金に困って両親を殺したこと、家に火を点けたこと、残された俺を面倒見ていたのはいずれ入る保険金があったからだったと。しかし、金を手にする前に叔父は事故で自由を失ったしまった。今は本当に申し訳なく思っていると叔父は言った。だから俺に殺されてもいいと思っていると。俺は叔父を殺すつもりでいた。あんな残忍な方法で両親を奪ったんだ。復讐しかないと思っていた。
それでも一人になった俺を面倒見てくれたのは叔父である事実は変わらない。引き取ってもらったばかりの頃は暴力を振るわれたこともある。でも事故で車いすになってからは、人が変わったように俺を可愛がってくれた。それが罪滅ぼしの気持ちだったとか、そういうのでも構わない。たった一人の肉親なんだ。たった一人の肉親なんだよ。
だから俺はどうすればいいかわからない。本当にどうすればいいかわからないんだ。”

その手紙を読み切ったとき、俺は涙を流していた。
「なぁ叔母さん。今頃、木田は何をしているんだろう?叔母さんわかるんじゃないのか」
「わからないわよ。だって視てないから。もう視ようとも思わない」
俺に背を向けたまま、開店の準備をする。

3/4
コメント(4)
  • 木田さん可哀想(T . T)
    叔母さんも見え過ぎちゃうのは辛いですね

    2023/09/04/17:50
  • 両親を殺害したのが育ててくれ虐待してた叔父さんとは複雑で、私だったら許せるだろうか考えさせられる話しでした。

    2023/09/08/15:31
  • 木田くんとおじはどこへ行ってしまったのか

    2023/10/06/00:57
  • 怖いというか、めちゃくちゃ面白かった。
    高島礼子シリーズもっと読みたいですw

    2024/03/27/13:37

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