ニンジン

「まぁもういいわ。ほんでなにこれ、この警察・・・」そう聞くと、なぜか婆ちゃん、
ニヤニヤとしながら「畑で四人、死んどったわ」・・・と言う。

「死んでたって??・・・人が?」そう聞き返すと、うれしそうに「うん」とうなずいた。

「うんって、遺体は?まだそこにあるの?」と聞きながら畑の方を見る。
キープアウトのテープが張られ、鑑識課員のような人たちが取り囲んでいる。

「遺体はもうないよ。警察がもってったわ」という。

「家ん中は関係ないから、まぁお上がんなさい」と婆ちゃん。

夏休みに帰省したら、実家が事件現場になっていた、という異様な体験はそうそうできるものではないが・・・まぁ、あんまり気持ちの良いものではない。

「じゃ、まずは仏壇のお爺ちゃんに挨拶でもすっか・・・」と仏間に行こうとしたら、
「なんねぇ!今はまだダメじゃ!」と怒って仏間に入れさせてくれない。

・・・なんかおかしい。

夕方、夜のとばりが降り始めようかという時間になって、ようやく警察らも帰って行った。
聞くと隣のタケシさんの畑の小玉スイカが100個ほど盗まれていたそうだ。
だがスイカは無事持ち主のところに戻った。犯人たちはクルマを打ち捨てたまま、なぜかその隣にある婆ちゃんのニンジン畑で変死していたからだ。鑑識課員たちもクビを捻っていたそうで、死因の特定には至っていないらしい。・・・なんとも怖い話だ。

だが、農家の敵である野菜ドロボウが死んだのである。婆ちゃんは「天罰じゃ」と言って喜んでいた。そんな婆ちゃんも孫にはデレデレだ。子供たちも婆ちゃんのおかげか、野菜大好きでニンジンでもピーマンでも嫌がらずに食べる良い子に育った。

そんなわけで、今夜は婆ちゃんの畑で採れた新鮮な野菜を中心にした料理が並ぶことになった。ニンジンはなかった。今朝がたニンジンを採ろうと畑に入ると、あんな事件が起きていたため、ニンジンは採らずに帰って来たらしかった。

・・・・・・

夜も更け、子供らを寝かしつけた後、ボクと妻と婆ちゃんだけで、婆ちゃん自慢の梅酒をロックで飲みながら、事件のことなどを話していた。それで、気になっていたことを切りだした。

「婆ちゃん・・・ところで、なんで爺ちゃんの仏壇、拝せてくれんね?」

「・・・ヨシ、孫らも寝たし、あんたらだけにこっそり見せちゃるわ」

婆ちゃんを先頭に、仏間に入って行く。

「あんれ?」仏間に入ると、婆ちゃんが何かを探すかのようにキョロキョロしだした。

「なんね?なんか探しもんかい?」そう聞いても途方に暮れたような顔をするばかりで何も答えない。「いんや、なんでもねぇだ」そう言って、仏壇の前の新聞紙をかたずけながら、居間の方に戻ってしまった。

何が何やらわからないが、とりあえず遅ればせながら爺ちゃんに手を合わせた。
「気のせいかこの部屋、血の匂いがするな・・・」そう思った。

・・・・・・

翌日。朝も早くから畑に入る婆ちゃん。子供らも付いて行って婆ちゃんを手伝っている。
今朝は採れたて新鮮なオクラを食べさせてくれるらしい。

だが、婆ちゃんと一緒にいた子供らは、突然笑いながら走り出した。
走って、例のニンジン畑の中に入って行く。