ニンジン

朝方、畑仕事のためにそこに訪れた農家の婆さんは、あまりの惨状を目の当たりにし、すぐに警察に電話をした。だがここは田舎だ。そんなに早く警察もやってこない。
婆さんはどうしたものかと思っていたが、見ると倒れた人のすぐ近くに異様なものがあるのを見つけた。人の形をした不気味なニンジンである。

「コレ・・・爺さまでねが・・・」
そう言って、不気味で巨大なニンジンを拾い上げ、一旦家に持ち帰った。

婆さんの旦那であった爺さんは、春先にこの畑で亡くなっていた。
嵐の日に「ちょっと畑を見に行く」と言ったまま、帰らぬ人となっていた。
検死の結果はカミナリに打たれたというものだったが、顔は赤黒くなり、穴という穴から血が噴き出していた。

婆さんは、爺さんの仏壇の前に新聞紙を広げ、そこに先ほど拾ってきたニンジンを寝かせた。仏壇にはロウソクと線香を立て、拝んだ。

「爺さま・・・爺さまが化けて出たんと違うんか・・・?」そんな問いかけをした。

やがて警察のサイレンの音がしだしたので、婆さんはまた外に出ていった。

・・・・・・

ボクは今、夏休みを利用して、子供らを連れて帰省のために田舎へ向かっているところだ。
朝早くに家を出て、クルマで4時間。子供らもそろそろドライブに飽き始めている。

田舎は畑農家をやっていて、ニンジンに枝豆、オクラ、茄子にトマトにキュウリに大根と、いろいろなものを作っていて、都会暮らしのボクらからするとうらやましい限りなのだが、
それも今年限りになりそうだと、電話で婆ちゃんが言っていた。

婆ちゃんももう歳だし、なんといっても春先に爺ちゃんが亡くなったのが痛い。
農家のリスクはあげればキリがない。値段は安い、動物に食われる、最近では野菜ドロボウも横行しているという。婆ちゃんの小さい肩には荷が重すぎるのである。

まぁボクみたいに息子が東京でサラリーマンをするせいで、農家の跡継ぎがいない問題もあり、責任の半分はボクにもあるのだけれど・・・。

そんな最後の夏を過ごすべく、夏休みに子供たちを連れ、クルマで田舎へ向かうというわけだ。もうすぐ実家が見えてくる・・・と思っていると、ヤケにパトカーが停まっているのが見える。なにごとかと思って近づいて行くと、どうやら実家のまわりに何台も停まっているようだ。

「え?なんか、事件か・・・まさか婆ちゃんが・・・?」と悪い予感が走る。

実家の敷地内に入り、クルマを停める。

警察官から「関係者以外立ち入り禁止ですよ」と制止されるが、

「関係者です!ここの家の家族の者です!!」と大声で叫ぶ。
「あの、お婆ちゃんは?・・・何かあったんですか!?」と言ってるそばから、
「よぅ~来たのかい」と婆ちゃんがヨボヨボ出てきた。

「なんっ、も~～婆ちゃん心配したが~~~、なにこれどうしたの?」
と半分呆れて問い詰めた。子供らも安心したのかクルマを降りて婆ちゃんに走り寄った。

「いや~~朝、そっちに電話したんだけんど、つながらなくて~」

「うん、だから携帯の電話番号おしえたやん」

「ほうだっけかの?」