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kanaさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

【short_93】泣く子
短編 2024/03/26 21:20 694view
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会社へ向かういつもの通勤電車に乗った。いつもの車内。いつもの風景。

突然、シクシク、シクシク、と静かに泣く声が車内に聞こえだした。
(ん~~?なんだ?)そう思って見回してみると、なんと小学生の女の子が泣いている。

(いったい何事だ?)と思って見てみた。・・・まさか痴漢か??
例え小学生の子供とは言え、そーゆー性癖のやつもいる。女の子の周囲を観察してみる。
だが、怪しい動きは見られない。というか、周りの大人たちも女の子が泣きだしているのに気が付いて少し困惑しているようだった。

日本人と言うのは普段優しくて誠実な人が多いと思うのだが、いざ突発的な事となるとなかなか行動に移せない人種でもある。最初の一歩を踏み出す勇気がちょっとだけ足りないというか、果たしてこの状況は自分から声をかけて良いのか迷う・・・と言うか。だから逆に「お願いします」とか「助けてください」という明確な言葉があると、俄然助けてくれる民族でもある。・・・だが、女の子からその言葉は出てこなかった。
しょうがない。ここはひとつ意を決して、自分が話しかけてみよう。

「あの~どうしたんですか?なんで泣いてるの?」少しかがんで聞いてみる。
女の子はしばらく僕の顔を見ていた。まるで(この人にしゃべって大丈夫か)と品定めしているかのような顔だった。彼女は小学生だと言うのに小さなかわいいセーラー服を着ており、一目でイイトコの学校に通うお嬢様なんだとわかった。そのお嬢が泣きながら重たい口を開いた。

「電車、降りたい・・・」
「そう、電車降りたいのか。もうすぐ次の駅だから・・・」
「ううん、今すぐ降りたい、怖い、この電車怖い!」
「え?」ボクは周囲を改めて見まわしたが、別に怖いものなどなさそうだった。
「そう・・・じゃあさ、別の車両に行こうか」
そう言ってランドセルの背中を押して後ろの車両に移動させようとしたその時、突然女の子が僕の手を掴んで、後ろの車両に走り出した。人波をかき分け後ろの車両に移ったが、女の子はまだ止まらない。どんどん後ろの車両へ向かって走って行く。

その時、前方車両から恐ろしい音と、激しい振動、人々の叫び声が響き渡った。
振り返ると、車両が破壊され、壁と天井がはがれ、車体を構成する金属がめくれ上がり、まるでナイフのように乗客たちを襲っている。それは車両がミキサーに変わった瞬間だった。

ボクは対面式になっている椅子の足元に女の子を投げ込み、覆いかぶさるようにして自分も床に這いつくばった。まるで爆発でもあったかのような激しい音の後、電車は止まった。
静かになったところでようやく僕は顔を上げた。どうやら生きている。女の子も泣いてはいるが無事なようだった。

「うぐっ」僕は絶句した。・・・そこには地獄絵図が広がっていた。血の海と散乱した遺体。ボクが逃げ込んだ対面式の椅子に座っていた乗客たちは、首から上が無くなっていた。
女の子の白いセーラー服も、床に滴る血で真っ赤に染まった。

後に、すれ違う列車が脱線した事により側面衝突事故が起きていたのだと判った。
僕と女の子が元の車両にいたままなら、今頃二人とも生きてはいなかっただろう。
彼女には、この未来が見えていたのだろうか・・・。

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