エミちゃんがいない

ある保育園で保育士をしている、U子さんの話だ。

U子さんはまだ引っ越したばかりで、走りなれてない細い路地を通ってスクーターで通勤していた。
見通しの悪い交差点に差し掛かり、注意深く通ったつもりが、ちょっとした道路の凸凹でバランスを崩し転倒してしまった。
幸い、スクーターに傷が付いたものの、フルフェイスヘルメットのおかげで軽く頭をぶつけた程度で済んだ。

その日のU子さんの仕事は、5歳児の散歩の引率で近くの公園へ行くことだった。
保育士は、常に園児が今何人いるか把握しないといけない。
公園にいる間、U子さんは10人の園児がいる事を何度も確認していた。

遠足は滞りなく予定通り帰る時間になり、U子さんは園児の人数を数え始めた。
「…7、8、9…、一人いない？いないのは…エミちゃん？」
U子さんは慌てて、一緒に引率していた別の保育士に
「先生、エミちゃんがいないんです！一緒に探してください！」
と頼んだが、
「『エミちゃん』って誰？それに、ちゃんと9人全員いるじゃない。どうしたのU子先生？」
と怪訝な顔でそう言われた。

「だって10人いるはずなのに…。」

その保育園には「エミちゃん」という名前の園児はいない。
他の保育士が、その日の出席者の名前が書いてあるメモをU子さんに見せて、園児が9人であることが確認できた。
とりあえずその日は、U子さんは自分の勘違いという事にするしかなかった。

翌日、U子さんは通勤途中で昨日転んだ交差点に差し掛かった。
あの時は気が付かなかったが、そこには「事故の目撃者を探しています」という立て看板があった。
U子さんはスクーターを停めてその内容を読んだ。
「〇田　エミ」という5歳の子がそこで亡くなっていた。