翌日から早速、工藤と一緒に仕事を開始したのだが、どうも話が違う。
確かに清掃の仕事ではあるのだが、ただの清掃ではなかった。それはいわゆる「特殊清掃」というやつだったのだ。
「特殊清掃業」
自殺や他殺、孤独死などの現場に行き、清掃を行う仕事のこと。
いかにも、今の時代ならではの仕事だ。
依頼の電話が入ると、二人一組で軽バンに乗り込み、現場に向かう。二人一組といっても、つまりは、俺と社長である工藤の二人だ。
初仕事は、古いアパートの一室だった。
覚醒剤中毒の男が同居していた女性を、刃物でめった刺ししたという現場は、凄まじい状況だった。
散らかり放題の部屋の床や壁のあちこちに、赤黒い血が飛び散っている。
つなぎの作業着姿の俺は、未だ生臭い匂いが漂う中で、同じ格好をした工藤の指示に従いながら、てきぱきと作業を進めていった。
あと、法律違反すれすれ、というか、恐らくは法律違反の仕事もやった。
暴力団事務所での死体の処理だ。
まず、事務所内をきれいに清掃した後、あらかじめ準備してきた麻袋に、まだ体温の残る男の死体を入れて、軽バンの荷台に載せ、埠頭まで走り、重しを付けて、海に投げ込む。
これだけの作業で、およそ百万円を即金でもらえるらしい。
事務所に帰る車の中で、工藤は咥えタバコで運転をしながら、助手席に座る俺に話しだした。
「おかしな死にかたをした連中は皆、寂しがり屋だ。
同じような境遇の人間の波長を感じたら、近寄って来る。
だから、作業中は、作業だけに没頭するんだ。
間違っても、やつらに同情なんかするなよ。
特に、お前の今の境遇とかは、やつらの波長に近いものがあるからな」
─は?「やつら」?
一体、誰のことを言ってるんだ?
最初、工藤のこの話を聞いたとき、ほとんど何を言っているのか分からなかった。
だが今はなんとなく理解できるような気がする。
それは一週間ほど前のこと。
その現場は、郊外にある古い住宅街の中の一軒だった。見たところ、どこにでもあるような二階建ての家。連絡をくれたのは、その家に一人で暮らす若い女性だ。
なんでも仕事を終えて、夜八時ころ家に帰り着き、シャワーを浴び、夕食をとり、さあ、そろそろ寝ようか、と寝室に入ったところ、ベッドの掛け布団が妙にこんもりしている。恐る恐るめくってみると、心臓が飛び出るくらい驚いたらしい。
なぜだか見知らぬ若い男が裸で寝ている。
病的に色が白く、異様に痩せていて、あばら骨が浮いている。
ピクリとも動かないから、そっと触ってみると、ひんやり冷たい。
彼女はあわてて警察に通報した。
すぐに警察官が駆けつけ、調べたところ、やはり男は既に亡くなっており、少なくとも死後四、五時間経っていたらしい。
彼女は朝早くから仕事に出かけ、夜帰るまで家は無人だから、男はその間に忍びこみ、なぜか布団に潜り込み、そこで亡くなったということになる。
女性は男について全く見覚えさえないらしく、警察では現在男の身元を調査中という。
フレンドリーガイ。
男の目的は侵入した部屋の女性では無く”俺さん”だった。
必要な仕事なのだが精神的にはイカれそうだ。
生活の目処が立ち始めたのに…