未練の悪戯
投稿者:寇 (4)
街灯の陰影を半身に浴びているものの、表情は真っ暗で見えない。
しかし、明らかに祖父が眠る寝台から起き上がったそれは、ぎこちない動きで前のめりになると、そのまま倒れるように這いつくばり寝台からずり落ちていく。
ズリ、ズリ、ズリ…。
衣服の擦れる音と寝台が軋む音が共鳴し、祖父が地面を這っている。
不格好な匍匐前進に似た動きを見ていると、それが俺がいる寝室に向かって這いずっていることに気付き、俺は必死に体を動かそうと力んだ。
だが、金縛りは解けず、俺は小刻みに震えながら強制的に這いずる祖父がここまで辿り着くまで見ている事しかできない。
嫌だ、何で爺ちゃんがこんなこと!
俺は祖父に何か酷い事をしただろうか。
高校卒業までは月に何度か会いに訪問していたが、大学進学と共に二年弱会いに行っていないのが原因だろうか。
俺が会いに来なかった事にそんな怒っていたのだろうか。
こうして金縛りに遭っているとそんな不安な気持ちと祖父への懺悔で考える事が混線していると、次第に祖父の方から何か呻き声のようなものが聞こえてくる。
『……く………よ』
よく聞き取れない。
祖父の影がズリズリと寝室まで差し迫っている。
『……たく……いよ』
祖父にしては酷く掠れた声色だったが、これが俺に向けて発せられた声だと言うのが伝わる。
ズリ、ズリ…。
祖父の影が遂にリビングと寝室の垣根を越えて俺へと一歩近づく。
『……たく、ないよぉ……』
ピタリ。
冷たく乾燥した触感が野ざらしとなった俺の足首を掴み、思わず呼吸が上ずったように乱れる。
「……!!」
そして、その触感はピタリ、またピタリとまるでロープを手繰るようにして確実に前進してくるのが分かった。
もう勘弁してくれ、爺ちゃん!
俺は何度も般若心経を心の中で唱えてみたが、それでも金縛りは解けないし、声も出せない状況に変化がない事から半ば諦めかけていた。
だがその時、
『死にたくないよぉ……』
か細い声でハッキリ聞こえたのは、紛れもない未練の籠った言葉だった。
ああ、爺ちゃんは一人死んでいくことが怖いんだ。
家族に看取られる事もなく施設で息を引き取った爺ちゃんは、きっと寂しかったんだ。
おじいちゃんの未練かと思いきや…
面白かったです
おじいちゃんは亡くなっても優しかったね
「おう、○○。元気してたか」
「ああ、それなりに。それより爺ちゃんは?」
この会話絶対間違えてるやろ。母親と子供の会話じゃない。
作者、父親との会話と勘違いしてたっしょ。