奇々怪々 お知らせ

心霊

寇さんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

未練の悪戯
長編 2022/06/06 22:27 31,750view
3

思わず張り付けた鼻の辺りをガラス越しに小突いてやると、人影はガラスから離れて消えていく。

俺はすかさずドアを押し開けて近くに置いてあったバスタオルで股間を隠すと、職員を捕まえる為に脱衣所を飛び出してリビングへ躍り出た。

「……あれ?」

だが、逃げた筈の職員をすぐに追いかけたにも関わらず、出入口まで吹き抜けたこの広いリビングの何処にも職員の姿はなかった。
それどころか、ドアが開いた形跡もない。

俺はとりあえずキッチンとか寝室の押し入れとか、人が隠れられそうな場所を見て回ったが当然ながら誰もいなかった。

不思議に思いながら着替えに戻ろうとした所、俺は何故かリビングの端で眠る祖父の近くに向かう。

そして、少し前に焚いていた線香に目を向けると僅かに風に靡いているのが分かり、その残留が俺が寛いでいた寝室に向かって散っているのが分かった。

俺が神妙な面持ちで寝室を見つめていると、視界の隅、祖父に被された布地が僅かに動いた気がした。

咄嗟に祖父へ向き直り、布地越しに祖父の顔面をまじまじと見ていると寝室から俺のスマホが鳴り始めた。

内心、かなりドキッとしたが出てみると母から明日の朝7時くらいに来ると電話越しに言われたので、ついでに朝食を頼んどいた。

不思議な出来事だったが、母との電話が終わった頃には俺が能天気な性分だからか気にすることもなく着替え終わり、帰宅する前に母が買ってきてくれたコンビニ弁当を食べる。

それからはテレビを見ながら弁当のおかずをつまみ、スマホでゲームしながら友達とラインするといった、祖父の訃報と豪華な一室を除けば至って普通の一人暮らしを満喫している気分だった。

それに死人と一夜を共にするといった字面だけみればかなり恐怖値の高い行為も、やはり身内だけあって特に畏怖もなく気にもならない。

俺は夜中まで平常心のままのんびりと過ごした。

そんな折、異変が起きたのが就寝して少し経った深夜二時を回った頃だろうか。
僅かな空調の音だけが鳴る暗い視界の中で目が覚めると、何処からか刺々しい視線を感じた。

照明のスイッチの常夜灯とか、火災報知器の赤ランプが窓辺から射し込む街灯の光と合わさって滲んでいるが、それでも消灯された室内は暗い。

俺は恐る恐る首を動かしてリビングの方へ向いてみると、ちょうど祖父の寝台の一部だけが認識できた。

「……!」

とりあえず体を起こそうとした所、俺は体が動かない事に気がついた。
途端に焼香の強い悪臭が鼻を掠めると、妙な悪寒が背中を迸り、嫌な気配がひしひしと伝ってくる。

ふわり、ふわり。

俺は寝そべったまま寝台の方へ向くと、寝台の上、つまり祖父の頭上に何かが漂っているのが見えた。

暫く目を凝らして見てみれば、それが白い布であることがわかった。

例えるなら人が顔面にティッシュを被せて呼吸をすればその度に吐く息に押されてティッシュが捲れて靡くだろう。

それが視線の先に眠る祖父の頭上で起きている現象だ。

喉が渇き破裂しそうな心拍の高鳴りに息を呑んでいると、寝台がガタガタと揺れ始める。
何が起きているのか必死に理解しようとするが、寝台の揺れが収まったかと思えば、今度は仰向けに寝かされた祖父が不意に体を起こしたのだ。

俺は思わず目を見開き、目の前の現象を食い入るように見据える。

3/9
コメント(3)
  • おじいちゃんの未練かと思いきや…
    面白かったです

    2022/06/07/09:41
  • おじいちゃんは亡くなっても優しかったね

    2022/06/26/11:52
  • 「おう、○○。元気してたか」
    「ああ、それなりに。それより爺ちゃんは?」

    この会話絶対間違えてるやろ。母親と子供の会話じゃない。
    作者、父親との会話と勘違いしてたっしょ。

    2023/11/10/12:22

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。