付き纏う死者

次に目が覚めると、既に外は夕焼け色に染まっており、反射的に起きた俺は室内を見渡す。
時折聞こえる烏の鳴き声を余所に、テーブルに置いたままのスマホを確認すれば上司や同僚の不在着信でいっぱいだったのを見て青ざめた。

俺はすぐに上司に連絡し、情けなくも階段を滑り落ちて家に戻った後、今まで気を失っていたと正直に話した。
上司は怒髪天を衝いたように捲し立てていたものの、次第に冷静になると俺の身体の心配をしてくれ、最終的には頭を打ってないか病院で診てもらえと言い渡された。
電話越しに何度も頭を下げた俺の誠意が伝わったのか、普段の行いの賜物か、丸一日無断欠勤したにしては御の字だ。

この日、気を失って目覚めて以降、俺の前に例の男性の悪夢や幻覚は現れていない。

病院で検査してもらったが特に異常もなく、寧ろ健康体だと誉められた。

結局、あの男性が何だったのかは分からないが、俺は首吊り死体を見た恐怖から見た幻覚だと思っている。

ただ、幻覚だとしたら少しばかりおかしい事があるのだ。
本当に偶にだが、残業で帰りが遅くなりあのアパートの前を通る際、首吊り死体が発見された部屋のドアが開いていて、死体がぶら下がっているのを見かける事がある。

と言っても、目を瞑って頭を振るい、もう一度目を開ければちゃんと玄関戸が閉じたままの何の変哲もないアパートに戻っている為、これは俺の目の錯覚なのだろう。

それほど死体を見た衝撃が強いという事だ。
俺はそう思いたい。