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呪い・祟り

@zawazawa46さんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

アケさん
長編 2022/04/24 21:34 8,621view
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 気がつくと、Y先生の家に寝かされていた。
Y先生というのは件の神社の跡取り娘で、村の祭事や例の山に関する一切を取り仕切っていた女性だ。
当時女性に神職の資格は許されていなかったから、婿を取って形だけの神主としていたが、実権を握っていたのは彼女だった。
曽祖母の歓喜の声が聞こえたかと思うと室内は瞬く間に騒がしくなり、ドタバタと大勢の足音が集まってきた。
曽祖父「馬鹿もんが…大馬鹿もんが…」
あの厳格な曽祖父が泣いていた。
ようやく意識がはっきりとしてきた祖母は、山で起こったことを伝えようとするが、パニックになっていてうまく話せない。
祖母「お父ちゃん、A男とD介が、山で、大変で、それで、泣いて」
息を切らしながらやっとそれだけ言った。
曽祖父は、「分かってる。とにかく今はゆっくり休んで、時期が来ればY先生からお話がある。」と言った。
祖母「B子とC太は?どこ?」
曽祖父「あの二人は無事だ。とにかく寝てろ」
曽祖父の言葉を聞いて安心したのか、再び眠りへと落ちていった。

 それからは、村でB子達の姿を見ることは二度となかった。
気になってはいたが、あの出来事を思い出したくなかったので、聞かないようにしていた。
そして事件から8年後、祖母が17歳となった時に転機が訪れる。
初潮が来たのだ。
曽祖母から「あんたも一人前の大人になったから、話さなければいけないことがある。」と言われ、Y先生の家へと連れて行かれた。
曽祖母「Y先生、こんにちは。娘に月の障りが来まして、例の…」
Y先生「分かっているよ。そこに座りなさい。」
Y先生は曽祖母が言いたいことを既に分かっていたようだ。

その日祖母は、曽祖母とY先生から今でいうと性教育のような手ほどきを受けた。
これから嫁いでいくであろう祖母に必要な知識を一通り教えた後、Y先生は言った。
Y先生「それでねぇ、〇〇ちゃん(祖母のこと)ももう大人だからね、あの山のことを話さなきゃいかんのよ。」
凍りつく祖母。
あの山、なんてひとつしかない。
恐怖を思い出して冷や汗をかき始めた祖母に、真剣な顔のY先生が言葉を続ける。
以下は、私が祖母から聞いたY先生の話をまとめたものである。

 話の発端は江戸時代まで遡る。
旅人に未婚の娘を差し出して夜の相手をさせるというのは、全国各地で行われていてそれほど珍しいものでもなかったが、k村は少し違った。
まず、旅人の相手をして子を宿した女性を「正体不明の男の子供を身籠ったクズ」として、軽い村八分のような状態にした。
家族とは別に村外れの小屋に住まわせ、子供を産ませた。
そこで産まれた子供が男の子なら下働きに使ったり、人買いに売ったりしたそうだ。
だが、問題は子供が女の子であった時だった。
非力な女の子は農作業では大して役に立たないということで、遊郭などに売るか、または次世代の出産マシーンにするべく育てたらしい。
そして、旅人の子供を産んだ女性は村の男達で共有できる性処理要員とした。
つまり、昼夜を問わず男達がレ●プしにやって来るのだ。
やがてまた子が産まれると、女の子は母親と同じ道を辿る。
村の女達は、何も言えなかった。
当時の日本はどこも男権社会だったが、K村はド田舎の農村ということもあって特に女性の地位が低く、下手に反対すれば今度は自分が同じ目に合わされるからだ。
罪悪感からか、そういった女性の出産や子育てには村の女達がこっそり協力していた。
村ではこの不幸な女性達を「アケ」あるいは「アケさん」と呼んだ。

名前の由来は分からない。
ある時、数人の(正確な人数は不明)アケさんとその子供の住む小屋で病気が発生した。
原因もわからなければ、対処法もない。
しかしそのままにしておけば村が危ない
そんな状況で村民達が出した答えは、病気のアケさんや出産などで死んだアケさんを、村から離れたところに隔離しようというものだった。
そうして出来た隔離施設が、祖母達が見た寺のような建物、通称「山蔵」という訳だ。
山蔵に働けなくなったアケさん達を押し込めることは、事実上の見殺しだった。
亡くなったアケさんをまだ動けるアケさんが埋葬したり、山蔵に来てから妊娠が分かったアケさんの出産を自分達で介助する。
時々村からやってくる人が僅かな食糧を置いていく。
そんなことが、何年にも渡って続けられた。
これが風習として定着しつつあった頃、村の男達がバタバタと死に始めた。
それも普通の死に方ではない。
生きたまま身体中の関節がおかしな方向に曲がり、血の泡を吐きながら死んでいく。
死ぬのは大人の男ばかりだったことから、アケさん達の祟りだと噂になった。
また、女達は毎晩悪夢に魘されることになった。
男が全員死んでは村が滅びてしまうので、なんとか祟りを鎮めようとしたのだが、何をやっても治まらない。
追い詰められた男達は、まだ生きているアケさんがいるためだと考えて怒り狂い、あろうことか1人だけ生き残っていたアケさんを殺してしまった。
彼女は息絶える直前にこう言った。
「私が何をしたというのか!思い知れ、思い知れ!」
その世にも恐ろしい形相を見た男たちは、強い力を持つことで有名な坊さんに供養を頼むことにしたが、坊さんは使いの村人を見た途端、「それは、私に鎮められるものではない。▲▲神社に相談してみなさい。」と言ったっきり帰ってしまった。
藁にも縋る思いで▲▲神社に行き、神主のアドバイスを受けて出来上がったのが、祖母も知っているあの神社だ。

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