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不思議体験

@zawazawa46さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

遺影の願望
長編 2022/05/01 14:23 3,938view

今から20年以上前、俺が6歳の時の話。
俺の実家は地元では結構古い家らしく、だだっ広い敷地内にはこれまた年季の入った蔵があった。
当時は子供だったこともあり蔵は危ないから入ってはいけないと言われていたのだが、チラリと見えた内部は何やらたくさんの物が所狭しと置いてある、まさに冒険にはうってつけの場所に思えたのだ。
ある時、いつものように蔵の掃除をしていた祖父が、ほんの数分席を外したことがあった。
俺は、ちょっと中を見物するだけのつもりで蔵に足を踏み入れた。
そして適当にその辺を物色していると、何故だか目を惹く一枚の写真がある。
それはかなり画質の悪い白黒写真で、粗末な和服に坊主頭の青年が写っているものだ。
年の頃は10代半ばから後半くらいだろうか。
写っている青年の年のわりにあどけないというか、ニカっと笑ったお茶目な笑顔に親しみを感じて、こっそりとその写真を持ち出した。
その日から、写真の青年は俺の友達になった。

もともと俺はかなり人見知りな性格で、恥ずかしい話学校に行ってもなかなか友達ができなかった。
そこで架空の友達を作り、一緒に遊んだつもりになって楽しんでいたのだ。

小さい子供なら誰しもイマジナリーフレンドがいる時期があると思う。
俺の場合はそれを少しこじらせていた。
あの青年の写真はそんな妄想をより具現化させ、加速させていく。
初めは写真に話しかけているだけだったが、次第に青年は言葉を話すようになり、実体が見えるようになった。
俺はそのことに何の違和感も感じていなかった。
今考えればおかしな話なのだが、何故だかその時はそういうものだと納得していたのだ。

彼は名前をマサ坊と言った。
マサ坊はなかなかに困ったやつで、俺より年上のくせに妙に子供っぽい。
口調などはまるで同い年の小学生のようだ。
難しい言葉を覚えるのが苦手で、どんなに図鑑を見ても大きな虫はすべてカブトムシ、それ以外はセミと言っていたのを覚えている。
でも、俺はそんな彼が大好きだった。
マサ坊が山に行ってみたいと言えば近所の裏山に連れて行ったし、公園までの近道や虫の取り方を教えた。

普通の子供がする遊びを何一つ知らなかった彼は、何を言っても目を輝かせて聞いてくれたので、その時間が何より楽しかった。

だが、そんな楽しい日々は突然終わることになる。
俺に精神の障害があるのではないかと疑った両親によって病院に連れて行かれ、マサ坊の存在を完全に否定されてしまったのだ。
俺は泣きながら猛抗議した。
何度も裏山に登ったこと、いつも公園まで競争したこと。
彼と一緒に楽しんだことをこれでもかと言う程捲し立てたが、大人達は困惑するばかりで信じてくれない。
どうして分からないんだ、うちに何度も来ていたのだから両親だって見ているはずだ。
そう言った直後、母の口から信じられない言葉が飛び出した。
「何言ってるの。あんた、いつも1人遊びしてたでしょ。だから心配になって。」
俺はもうパニックだった。
わけのわからない状況に困惑し泣き叫んでしまい、その日の診察は続けることが出来なかった。
家に帰り両親から話を聞いた祖父は、「そうか」とそれだけ言う。
子供だった俺は、その態度に大好きな祖父でさえ味方になってくれないのだと絶望し、夕飯もろくに食べずに寝てしまった。

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コメント(2)
  • 凄くいい話ですね。
    胸が暖かくなりました。

    2022/05/02/11:00
  • 悲しいが、会えなくあるという事は大人にあるという事なのかもしれませんね。息子さん
    マサ坊会えると良いですね。
    純心な子達と遊ぶ事が、みんなが彼の存在を忘れない事が、一番の供養かもしれませんね

    2023/03/25/13:47

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