霊園で行く手を阻むのは・・・
投稿者:カヤ (7)
アクセル、ガクン。アクセル、ガクン。アクセル、ガクン。アクセル、ガクン。
やがてそれを繰り返すうちにじわじわと車が方向転換をしているのがわかりました。
本来ならバックしてハンドルを切って直進するだけのなんということはない道のはずなのに、彼はガクン、ガクンと必死で車体を揺らして方向転換していたのです。
そして、いよいよ直進できるだけ車体を方向転換できた時、彼は一気にアクセルを踏みました。
そして、車はまっしぐらに霊園を離れ、丘を下り始めたのです。
私はとにかく怖くて車の後方を振り向くことができません。
同乗者として何か後方チェックなどするべきだったのでしょうが、とにかく見てはいけないような、彼に任せるしかないような気持ちで彼の焦る顔を見て、必死に動け動けと祈ることしかできませんでした。
彼も、後ろを振り向かずに必死にハンドルを切っていたのですが、車を直進させたその瞬間だけ、彼はチラッとバックミラーをみました。
そして、そのまま無言で丘のふもとまで車を走らせ、私の家まで着いた時に、ようやくはあ、、っとため息をつきました。
「なんだったのかな」
と私が思わず口にすると、彼はしばらく黙っていましたが
「多分、父さんが助けてくれたんだと思う。」とポツリと言いました。
助ける?だって車は動かなかったじゃないか、何を助けてくれたんだろうと私は彼の言葉の意味が理解できず、訝しく思いました。
「どうにも動けなかったのに、方向転換できたのは、多分父さんのおかげだ。」と彼はいうのです。
じゃあ、なぜ動けなかったのでしょうか。確かに車の後ろには何もなかったし、何もいなかったのです。
「別に怖がらせるつもりじゃなかったんだ、悪かった。」と彼は謝り、その時はそれ以上語りませんでした。
私も、何かそれ以上聞いてはいけない雰囲気で、送ってくれた礼を言って車を降りました。
その後、しばらくお互いにそのドライブの話はしませんでした。
でもやがてお互いに大学卒業が近づき、その店のバイトもやめる日がやってきました。
やめればそうそう会える機会もなくなることはわかっていたので、私たちは送別会がてら飲みに行くことにしました。
その時、私は思い切って聞いたのです。あの時のことを。
お父さんは一体何を助けてくれたのか。
彼は言いました。
「お前、後ろみた?」
「見てない、なんだか怖くてどうしても見れなかったんだ。」
と私が答えると
「だよな、俺も見ちゃいけない気がして必死だったんだけど、、、。最後に車が動き出す時に一瞬だけ見たんだ。バックミラーで。そしたら」
しばらく言いにくそうにしていたのですが、やがてポツリと言いました。
「車体の下から手が出てた。それがボンネットをおさえてたんだ。」
いるはずのないもの。あるはずのない手。あれは一体なんだったのか。そして車を動かすのを手伝ってくれたのは、彼のお父さんだったのか。
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