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心霊

青空里歩さんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

盆の舟
長編 2024/03/17 00:20 4,601view
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お囃子に合わせ、棒の先に丸いお椀のついた杓を手に、嬉しそうに舞を踊る人影が見えました。
やがて、船全体を包み込むように、水色の羽衣が、海風に吹かれながら、右に左にふわふわと宙を舞いながら漂い始めました。

幻想的な光景は、お盆に飾る走馬灯のようで、眩いばかりの美しさに、私は、思わず息をのみました。この小さな田舎町が主催するお盆のイベントなのかもしれない。思い出にしばし、眺めていようと思いたち、ラジオのスイッチを切り、車をガードレース脇に止め、窓を全開にいたしました。

すぅと湿り気を帯びた生ぬるい海風とともに、
「おーい。」という微かな声が聞こえてきました。
屋形船の上から黒い人影が、こちらに向かって手を振っています。
一人、二人…人影は、次々と増えていきます。

「おーい。」
「…来いよぉ。」
「こっちに…来いよぉ。」

「おーい。」

え?
おかしい。
あんなに遠く離れた場所にいるのに、声が、だんだんとこちらに向かって近づいてくるのです。
そもそも、沖に停泊している船や乗船している人たちが、暗い夜の海で、こんなにはっきりと見えるはずがありません。

提灯の大きさは、伸び縮みする風船のように変化し、灯りも、暗くなったり明るくなったりと不安定になりだしました。どうも様子がおかしいのです。
船を取り囲むように舞っていた羽衣と思しきものは、よく見ると、破れてボロボロになった帆柱の残骸のようでした。

もはや、この世のものとは思えません。
手元の時計は、22時を指しています。
海岸沿いを走り出してから、既に2時間以上が経過していました。

イベントならとっくに終わっているはずです。
全身が泡立つような怖気と悪寒に襲われ、私は大急ぎで窓を締めました。

その時、後部座席でおとなしく眠っていた息子が、ギャァァァと大声を上げ、激しく泣き出しました。
ドン!
ドンドンドン!

ガードレール側の後部座席の扉(ドア)が 数回叩かれ、
「おい!」
「おい!」
と嗄れた太い男の声がしました。

声のする方に身体を向けると、車の扉(ドア)の向こうに、真っ黒い人影が立っているのが見えました。
後部座席の扉(ドア)とガードレールの隙間に、人が立てるほどのスペースはありません。

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コメント(5)
  • まさか、ご主人(‘_’?)

    2024/03/17/20:44
  • なかなか読み応えがあって面白かったです。
    長編で面白い作品に怖い話の醍醐味を感じました。
    これからも頑張ってください。

    2024/03/18/09:24
  • (゜レ゜)。
    レーサーが宝船を見てはいけないという話があったと思う(゜レ゜)。
    東北こういう話多いね(;_;)。
    ( ゚д゚)。

    2024/03/18/12:41
  • お読みいただき、コメントを下さった3名様、ありがとうございます。作者の青空里歩です。
    順を追って、返信いたします。

    ・確かに、衝撃的なラストです。ご主人の後悔たるや並大抵のものではないでしょうね。

    ・初回投稿作『優良物件の裏側』をお読みくださった方でしょうか。もったいないほどの励ましの言葉ありがとうございました。これからも、ご期待に添えるよう頑張ります。基本、長編が多くなりますが、短編、中編にもチャレンジしていきたいです。どうぞよろしくお願いします。

    ・レーサーが宝船を見てはいけない。そんなジンクスがあったなんて初耳です。グーグルで検索してみたのですが、深夜番組で放送されたそうですね。実際に、現役カーレーサーで、見た人がいらっしゃるのでしょうか。
    東北は、別名「みちのく」ともいわれています。(漢字では、「未知の奥」と書くらしいですから)怖くて不思議な伝承怪談の宝庫。まだまだ、未知の怪談がたくさんありそうですよ。

    2024/03/18/21:30
  • 文章も上手く、構成もしっかりしている傑作。
    美しくも妖しい屋形船の姿が目に浮かんでくるようです。

    2024/03/20/00:26

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