ニンジン

深夜。頭に小さなヘッドランプをつけて畑の中を動いている４人の男たちがいた。
彼らは収穫間際となった農作物を手当たり次第に盗んでいくプロの窃盗団だった。

彼らが狙いを付けたのは、今まさに旬を迎えた小玉スイカである。手際よくツルからもぎ取り、カゴに詰めると、それをどんどんとトラックに積み込み始めた。
100個も積んだところで、男の一人が興味深いものを見つけた。
スイカ畑の隣にあった小さなニンジン畑である。

ニンジンはスイカのように一気に売れることもないので、普段はスルーしている。
狙うとすればやはり売れ筋のイチゴや葡萄等の果物系か、あるいは米だ。

だが、そのニンジン畑には、セリ科独特のワサワサとした葉っぱの中に、ひときわ大きく育ったものがあった。通常ならせいぜい高さが20~30センチほどだが、そのニンジンは優に１メートルは越え、月明りの下で見るとまるで畑の中に人が立っているように見えて不気味でもあった。

「オイ、ちょっとアレ、引っこ抜いてみないか?」リーダー格の男が言う。
そこにあると誰かに見られているようで鬱陶しいのと、あんなに大きな葉である、根の方がどうなっているのか、単に個人的に興味がわいたからだ。

四人の男がお化けニンジンの周りに集まり、そのうちの一人が引き抜こうとするがなかなか抜けない。二人、三人と手伝って、やっと抜け始めた。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁ!!!!」

辺り一面に響き渡る叫び声。まるでサイレンのようだ。
耳をつんざくようなその叫び声に、４人は思わず耳を塞ぎ、体を丸くして伏せてしまった。

信じられない事だが、それはニンジンの叫び声だった。
土の上に放り投げられたニンジンは、人間の手足のような形に根が伸び、大きな頭もついているように見える。そこには苦悶の表情を浮かべた老人の顔のような窪みやシワもあった。

足先のオレンジ色から、頭の方はどす赤黒い腐った血のような色になっており、見れば見るほど不気味な姿。大きさは赤ん坊ほどもあり、言うなれば爺さんの顔をした腐った赤ん坊の死体・・・とでも言うような代物。それが土の上に放り出されてヘッドランプの灯りの中に浮かび上がっている。

あまりのことに呆然としていた四人だが、ふと見ると、仲間たちが鼻血を流し始めていた。
ダラダラとその量は増えて止まらない。自分も鼻血が出始めた。喉の方にまで血が流れてきて、呼吸するのも苦しくなってきた。血の味が口の中いっぱいに広がる。

口の中の血を吐きだしてみると、血に交じってなにか固形物が飛び出した。

なんだ?と思って見てみると、それは根っこがついたままの歯だった。
舌で歯を触ってみると確かに１本抜けて、そこからまた血が出ている。

気になって触っていると、また歯が抜けた。次から次と歯が抜け始め、口の中でじゃらじゃらと音がした。それを一気に吐き出すと、血と一緒に十数本の歯が飛び散った。
唖然として仲間の顔を見ると、目からも耳からも血を流している。

「いったい何が起こっているんだ・・・」困惑してニンジンの方を見ると、
今まさに・・・ニンジンの目がぎょろっと見開いてこっちを見た。

「うわぁぁ、に、逃げろ・・・早くクルマへ・・・」そう指示しようとするが、喉にあふれた血のせいでゴボゴボ言ってうまくしゃべれない。それにもう手足もうまく動かせない。見ると長靴の中から何か液体が溢れてきた。まるで長靴の中まで水が入ってしまったかのようにガポッと音を立てて液体が飛び出した。真っ赤である。・・・血だ。長靴の中が血でいっぱいなのだ。軍手をはめた手を見ると、なぜかフニャフニャになっていた。中途半端に空気で膨らませたゴム手袋のようだ。そしてジワジワと血がにじんでいく。

「あぁぁ・・・これはいったい・・・」と思っている間に仲間たちが次々と倒れていった。
やがてリーダーの意識も遠くなり、そのまま二度と意識が戻ることはなかった。

・・・・・・