出所不明のDVD

俺はゲームのパッケージが並べられた棚に手を伸ばし、そこから一本のパッケージを抜き取る。ベッドの前に腰を下ろし、もう何年も現役のPS4を起動しモニターの電源を入れた。見慣れた起動画面を見ながらパッケージを開き、ディスクに目を落とした時、息が止まった。

『ここ』

無地の白に黒の明朝体、シンプルすぎて忘れようがないあのDVD。
なんでここに？どうして？Aのいたずら？
あらゆる可能性を脳内で模索するが、到底納得のいく結論は導き出せなかった。
パッケージが滑り落ち、床に落ちた衝撃で中のDVDが飛び出す。
まるで見ろと言わんばかりに、それは俺の目の前に放り出された。

からん、というその音で我を取り戻すと、俺はゆっくりとそのDVDに手を伸ばした。
さっきまであれほどまでに怯えていたのが嘘のように、俺の中の感情はむしろ怒りに近いものになっていた。
散々脅かしやがって、Aをどうした、元々入ってたゲームのディスクはどこにやった、絶対お前の正体を暴いてやる、といった感情が渦を巻き、俺は自分でも気づかないままそのDVDをプレイヤーにセットしていた。
今思えば、俺はこの時からすでに何かに誘導されていたのかもしれない。

しばらくの読み込みの後、DVDが再生される。

数秒ほどの暗闇。どうやら地面を映していたようで、誰かの手によりカメラが正面に向けられる。
画質は荒く、劣化したVHSのようなノイズがひどいが、かろうじて何が映っているかは確認ができた。
そこは森か山の中のようだった。時刻は夕方か早朝か、真っ暗ではないがとにかく薄暗い。
画面の中央部分は木の生えていない空き地のような場所が映し出されており、その周辺を囲うようにして鬱蒼とした木々が生い茂っている。
しばらくその映像が続いたかと思うと、カメラの手前からスコップを持った男が現れた。
浮浪者のような格好をしたその男はカメラに一瞥もくれず、空き地の中央にスコップを突き立て穴を掘り始めた。
直径で言うと1mほどだろうか、男はひたすらにスコップを動かし、土を掬っては捨て、あっという間に深さ1mほどの穴を掘ったようだった。
すると、男は突然スコップを投げ捨て穴の中に飛び降りた。
何やらもぞもぞと動いているようだったが、いかんせん画質が悪く不明瞭だ。少しでも見やすいよう部屋の明かりを落としモニターに目を凝らすと、ようやく男が何をしているのか理解した。

素手で穴を掘っている。
時折見える男の顔はもはや正気ではないようで、焦点のあっていない目を大きく見開きながら、口だけは笑顔のように引き攣るほど横に開いていた。
がりがりと素手で土を掘っては穴の外に投げ出す、その動作を延々と続ける男の手は、今や映像越しでもわかるほど血で塗れていた。

それでも一心不乱に土を掻き出し続ける様を見ていると、ある変化に気づいた。
これまでは土と血で覆われていた男の手に、何やら糸のようなものが絡んでいる。
微かな明かりに照らされ、時折白く反射して見えるそれが長い髪の毛だと気づくのに時間はかからなかった。

その様をどれほど見ていただろうか、気づくと男の姿はすっかり穴の中に隠れ、見えるのは時折外に投げ出される土と髪の毛が混ざった物体だけになった。
男は相変わらず一心不乱に穴を掘っている。
がりがりと爪が土を削る音がやけに大きく聞こえる。
そのうち土すらも投げ出されなくなった。
がりがりという音はまだ聞こえている。さっきよりうるさい。
穴から何かが出てくる。さっきの男だろうか。いや、ちがう。ぽっかりと空いた暗闇から覗いたそれは、白く細い女の手のようだった。
穴の淵に手がかかる。ゆらりともうひとつ手が暗闇から伸びて反対の淵に手をかけた。
がりがりという音は止まらない。頭が割れそうだ。
そして両手の間からゆっくりと真っ黒な物体が浮かび上がる。
土の中の湿気なのか、あるいは男の血なのか、黒い髪の毛は月明かりに照らされてぬらぬらと光っている。
そのうち白い肌が見えた。額だろうか。このままだと目が合ってしまう。それにしてもなんだろうこの音は。あまりにもうるさい。目が合ったらまずいとわかっているのに体が動かない。頭はゆっくりと上がってきている。がりがりという音がうるさい。もうすぐ目が合う。うるさい。あ、目が