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心霊

すだれさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

吊り下がる怪
長編 2023/04/09 20:08 3,310view
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先輩!?何してるんですか!
縄は!?どのあたりだ!今掴めてるか!?

友人は虚空に向かってカッターを持ってない方の手を振り、縄を掴む動作をした。それを見た後輩もまた、友人が何をしようとしてるのかを察し、反射で口を動かしたのだろう。

もっと右です!あと少し下…もっと……今!今掴みました!!その左手の真上を切ってください!!

後輩の誘導に従った友人は左手の上の空間をカッターを持った手で思いっきり一閃した。その動作の反動で友人は椅子から転げ落ちて尻もちをついたが、次に聞こえた後輩の引き攣った声に尻もちどころではなかった。
辺りを見渡す。
咳き込みながらもゼエゼエと呼吸をし、身体を起こす友達。
その背中を擦る後輩の顔は真っ青で、天井ではなく床を凝視している。

ゆっくりと後輩の視線を辿った先の床には、人間1人分の血液を連想させる真っ赤で大きなシミができていた。

「って言ってもそのシミ、人間の血なんかじゃなくて絵具だったんだけど」

「絵具かぁ…」
「がっかり?」
「いや、安心した。心底な」

その後は駆けつけた先生によって全員保健室に連行された。友達は念のため病院で診察を受けたが特に身体に異常はなく、本人も至って平気そうだった。
後輩は動揺が激しかったが、落ち着いた後友人にその時見えていた顛末を教えてくれた。

友人が縄を掴み、カッターを一閃させると縄はブツリと切れた。
そして友人が倒れる寸前、後輩はグシャリと何かが潰れる音を聞くと共に床に赤い液体が飛び散る様子を目撃したのだという。

「君の友達はその時、縄に首を取られていたってことか。そして君がその縄を切ったことによって助かったと」
「後輩の話を信じるなら、多分そんな感じ。でも先生たちにはこんな話できないから、俺と友達がふざけてる内に絵具ぶちまけたってことになってむっちゃ怒られたわ」
「縄からは、何が吊るされていたんだろうな」

「俺にもわからない」

ただ、と友人は車のウィンカーを点ける。いつの間にか目的地の駅は外装が見えるほど近付いていた。

「後輩さ、友達が引退して俺らが卒業するまで美術部員だったんだけど、最後にあの部室の様子聞いたらさ、」

(「あれからしばらく経った頃に、また出たんですよ、あの輪っかの縄」)
(「いつもは微動だにしないんですけど、放課後1人で作業してると時々あの音が聞こえるんです。まあ、聞こえた瞬間部室出るんでその後何があるわけでもないんですけど」)
(「あの日先輩たちと体験したアレを説明するのも気が引けて…後輩部員たちには『音が聞こえたら部室を出ろ』って伝えるつもりです」)

「後輩のソレ聞いて、『ああこうやって歴代の部員たちはこの助言を残してきたのか』って」

お前の話を聞いて、

「あれが『口承する者』の中でだけ存在できる怪異ってヤツなんだなって」

ハンドルを握る友人の右手がピクリと震えた。友人の手には、あの時カッターが縄を切った感触がいまだに残っているらしい。

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