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心霊

すだれさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

絡みつくもの
長編 2022/08/14 15:45 2,098view

「どうしたの?」

人形の吟味に夢中だった彼女が友人の元へ戻ると、ひどく驚いた様子で友人の真っ青な顔を覗き込んだ。
我に返った友人が細く息を吐きながら何とか言葉を紡ぐ。

「ああ、いや、人形…が…」
「人形?…ああ、絡んじゃったの?商品だから乱暴にしちゃダメだよ」

しどろもどろになっている友人の代わりに、彼女はボタンに絡んだ髪を慎重な手つきで解き、人形を友人に持たせた。
渡された友人は身体を強張らせたが、彼女は気付かなかったようだ。友人の手元の人形を見て、

「コレかわいいね!こんなのも並んでたんだ。…うん、この子にしよっ!ちょっとお会計行ってくるね」

彼女は友人の手にあった猫の人形を抱え、無邪気にレジへと向かった。
友人は震える手で残った人型の人形を元の棚へ戻した。
人形の目は隣に並んだ同じデザインの人形と同様、前をジッと見据えていた。

「その後はまあ、何事もなく旅行からも帰ってこれた。猫の人形は今も部屋に飾ってる。彼女も人形見るたび「楽しかったね」って言ってる」

人形の写真を見せてもらった。何の変哲もない、愛くるしい造形の猫の人形だった。例の人形の写真はもちろん無い。

「あの人形にはどんなヤツが乗り移ってたのかな」

髪を絡めてまで、何をしたかったんだろう。
友人は当時を思い出しながら喋ってるのだろう、こちらを見ることなく、視線は虚空を彷徨っている。

「あの目さ、本当に怖かったんだよ。ギョロっとしてさ、棚に並んでる時とは全然違う、顔つきまで変わって見えたもん。やっぱ悪霊っぽいヤツが乗り移ってたのかな?」
「おぞましい見た目とその本質は必ずしも合致はしないさ。それに先にも言ったが、そういう人形は「何でも」できる。もし本気で君に危害を加える気なら、とうに君の家まで来てそうだしな」
「足があれば歩けるんだっけ。案外買ってほしいとか、連れて行ってほしいとか、そんな感じだったのかな」

「そうだとしたら、悪いことしたなぁ」

俺、あの時、彼女が手に取ったのが猫の人形で。
逆の手に持ってた人型の人形じゃなくて。
あの人形を棚に戻すことができて。

「心底ホッとしちゃったから」

まるで懺悔を聞いている気分だった。無機物から睨まれたら怖がって当然とか、土産物屋の場所がわかってるならまた見に行けばいいとか、どんな事を言っても自嘲しか返ってこないだろうと思うと口は紡ぐ言葉を失った。実際、かの人形が何を訴えていたのか、ついに解ることはないが。友人が抱える「見つめられた目を逸らしてしまった」「伸ばされた手を弾いてしまった」「望まれたのを拒絶してしまった」感覚は、あの日から絡まって解けない。

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