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心霊

バクシマさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

理想の洗身
短編 2022/04/10 16:33 2,135view

「・・・は?」
この狂人は何を言っているんだ?
アメニティ?
ホテルとかにあるハブラシやカミソリとかのアレか?
「まあ、後で説明してやるから、とりあえず泡を流してこいよ」
泡を流すにも一人では浴室に戻れないので、シャワーを浴びている間、友人に監視してもらった。
幸いあの女はもう現れなかった。
そして寝巻きを着てから、友人に先程の件の詳しいわけを尋ねた。
「いやさ、床屋や美容院で、プロにシャンプーしてもらうのって最高じゃん?」
「うん。」
「でな、俺考えたんだよ。家でもあの快感を味わえないかなって。でも、家に美容師さんを常駐なんて大富豪じゃないと無理だろ?」
「そうだね」
「だから美容師の幽霊を連れてきたんだ」
「・・どうゆうこと?」
「病気や不慮の事故とかで亡くなった美容師の霊を都内で探しまわったんだぜ?そんで閉店して空き家になった元美容院の中で彼女を見つけたんだ」
「はぁ・・」

「せっかく独り立ちして自分の店を持ったばかりのときに交通事故だってよ。さぞや無念だったろうな。」
「うん・・」
「そんで、連れてきた。巡り合わせだな。」
「・・ごめん、やっぱり分かんないや。怨霊とか怖くないの?」
「彼女は怨霊なんかじゃないぜ。いいか?怨霊ってのは、主に生者への妬みで普通の霊が変質してなるものなんだ。」
「へえ」
「でもな、彼女の生者に対する妬みは僅かだ。なぜか?」
「なぜなの?」
「俺へのシャンプーアンドリンスさ」
「詳しく」
「俺に毎朝毎晩、生前の仕事であった美容師業を施すことで、充実感を覚えているのさ。
俺は毎日ブロの洗髪で癒され、彼女は霊でありながら、生き甲斐をもっている。まさにWin-Winの関係だろう?」
「はあ、うん、なるほど」
この頭のおかしい友人は、やはりネジがとんでいる。
そしてなにか、冒涜的なものを感じる。霊とはいえ、アメニティ扱いは如何なものか。
しかし・・・

「なあ、頭のおかしい友よ」
「なんだよ、その呼び方は」
「もし、アカスリ職人の霊がいたら、俺に紹介して憑けてもらえないかな?」
俺もまた狂ってる
「いいぜ。うちの美容師によれば五反田にひとり、腕を持て余してるのがいるらしいぞ。」
「ありがとう」
「いいんだ」
人間の快楽の追求に果てはない
それはときに霊魂さえも餌食になる
げに恐ろしきは生きている人間か・・・
その後、俺は改めて浴室の霊を友人に紹介してもらい、施術を受けた。
なるほど。冷たい指も夏場なら冷やしシャンプーと相性が良いかもしれない。俺の好む48度のシャワーと冷たい指が交互に頭皮を刺激すれば血行を促すことだろう。
さらに頭皮から首筋へのマッサージは流石本職の業だ。
ああ・・・
良い・・
顔剃りもしてもらいたいが、それは理容師資格との線引きから、この霊も拒むだろう。友人も無理に勧めることはしないはずだ。
だが、もし理容師の霊を連れ込んだとして、はたして剃刀を扱えるのか?この美容師の業の繊細さを考えるに、霊が剃刀を把持できるなら十分に可能性があるな・・
そんなことを、うつらうつら考えてるうちに、職人技の快楽は俺を夢の中へと落としていった。

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