同窓会に混ざりこんだモノ

私の隣に座っていた同級生が徐にコップの数を数え出しました。全部で20個あります。
「一人多くない？」とその子は言いました。先生のコップはまた来たときに追加するつもりで、そこにいた人数分運んでもらったはずなのです
。参加者は19人、なはずなのにコップは20個ありました。公園で人数を確認したときから1人増えているのです。

「でも未希子がさっきまで詩織の話をして…」と健吾がいうと、先生は聞き返しました。
「詩織って誰だ？」と。沈黙が訪れました。先生に言われて、気が付いたのです。

詩織なんて生徒、中学校にいなかったことに。
私たちはずっと詩織という存在しない人の話で盛り上がっていたのです。

そのことにゾッとしてしまいました。その後の同窓会はみんな騒然とし、和気あいあいと話す空気ではなくなりました。

後から聞いた話ですが、その日が未希子の命日だと覚えていた生徒は全員同窓会に参加しなかったそうです。

おそらく同窓会をする気持ちになれなかったのでしょう。未希子の命日を忘れていた私たちだけがターゲットとなったのは仕方がないことだったのかもしれません。

あの同窓会で、私たちは未希子と話をしました。もう自分の死を忘れてしまったクラスメイトに言いたかったのかもしれません。「ずっと忘れるな」と。

詩織が結局誰だったのかまでは分かりません。

ただ私は中学時代に未希子が熱心に書いていた小説の主人公がそんな名前だったような気がします。
あまりに出来すぎた詩織という架空の人物は未希子の理想を集めた小説の主人公だったのかもしれません。