死なない方がいいよ

30代の時に、うつ病が酷くて死のうと思ったんです。

地元に飛び降り自殺の名所の橋があって、夜中の一時頃、そこの近くの空き地に車を停めて睡眠薬を１ヶ月分ミネラルウォーターで飲み干したんです。普通に飛び降りるのが怖かったんですね。

でも、それでも飛び降りるのが怖かったんで、持ってきたカッターナイフで手首を切っていたんです。睡眠薬のせいで痛みが鈍くなっていたんですが、ナイフが錆びていて綺麗に手首が切れなくて、何度も何度も力を込めて切っていたんです。

血は滴りますが、ドラマなんかで見るような大量出血はしないので、だんだん面倒になってきました。

「朦朧としているし、このまま飛び降りようかな」

そう思って車を降りようとしたら、作業服の男性が側にいたんです。

「どうした？ここで何してる？」

作業服の男性は看板を懐中電灯で照らして、「ここは◯◯建設の私有地だから、声をかけようと思って」と言いました。

私は「あ、すみません」と車に戻ろうとすると、「もしかして、死のうとしてた？」と男性が私の血の滴る手首を懐中電灯で照らしました。

「ここさ、自殺の名所だけど、死ぬのはやめた方がいいよ。こんなんなっちゃうよ」

男性がそう言うと、私の見ている前でずぶ濡れになり、ブクブクに膨れ上がると、グズグズと崩れ始めたんです。

「ぐるじいよ？みづがんないど、こんななるよ？」

そう男性はそう言い残して懐中電灯だけ残して消えました。

私は死ぬ気がすっかり失せて自ら救急車を呼び、手首の治療と胃の洗浄を受けました。

しばらくしてあの橋を通りかかると、飛び降り防止の高い柵が橋全体に設置してありました。

あの作業服の男性は、橋から飛び降りて自殺したんでしょう。あの姿は水死体なんだと思います。