ケガレの集約地

アパートに帰る。
耳をふさいで走って帰る。
「女の声が聞こえたらおわり」と神主は言っていた。
『黒く焼け焦げた顔の女』=『ケガレの集合体』の足音も後ろを駆けて付いてくる。
私に付いてくるのではなく、私に引き寄せられているのだ。どこに逃げても無駄だ。
アパートに着き、部屋に入る。すぐ布団に潜り込み眠りにつく。

次の日、目がさめる。体は動かない、声も出ない。手足に力が入らない。指先がわずかに動くだけだ。

朝も夜も動けずにただ布団の中にいる。
毎日毎日、私は布団の中にいる。まいにちまいにち体は衰弱していく。私の体はあのおんなと同じ、焼け焦げたくすんだような色に変わりはじめた。
昨日、おんなが窓のすぐ外まできていた。今日はおんなが部屋のなかにいる。明日はどこまで近づいてくるのだろう。
少しずつ、少しずつ私のそばまで近づいてくるおんな。
早くはやくはやく、ひと思いに早く殺してほしい。ずっと黒いかおのおんなが見えている。 目をそらせない。
私が死んだら女はあの廃団地に戻るだろう。最期の力をふりしぼって、かろうじて動く指先で日記に警告を残す。この日記を読んだ人に伝わるように。
『廃団地には行くな。S県にある廃団地には決して行くな』