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呪い・祟り

笑い馬さんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

ケガレの集約地
長編 2021/01/15 17:00 56,316view
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鳥居をくぐる。向こうから白装束の神主が急ぎ足で近づいていくる。神主に問答無用で腕を捕まれ、鳥居の外まで引きずり出された。
「あなたは神域に立ち行る資格のない人間だ」と冷たい声で神主が宣告する。見覚えのある顔の神主。二年前にあの女を祓い、除霊してくれた神主だ。言葉の意味はわからない。
「助けて下さい!また黒い顔の、炭のように焼けてひび割れた顔の女が」私は必死に神主にすがりつく。だが、神主は汚らわしいものを払いのけるように私を引きはがすと、「もう遅い」と静かに言った。
「ただ、話だけは聞かせてもらいましょう」と先ほどとは一転して優しい顔で神主は語りかけてきた。私は廃団地に行ってから、また黒く焼け焦げた顔の女が夢に出たことを説明した。
神主は私の話を聞いて、顔をしかめた。神主はまず、私が置かれてている状況を説明してくれた。私が電話をかけたとき、神主が受話器で聞いた音は「除霊を頼む私の声」、そして同時に「女の金切り声」を聞いたのだという。女が叫んでいる。私のすぐ横で女が叫んでいるように、電話の向こうの神主には感じられたという。
「女の声なんて聞こえません」と
私が言うと「聞こえたら終わりですよ」と神主は言う。
ここの神社の神主を始め、電話をかけた先の神社がお祓いを断った理由がそれでわかった。私は相当ヤバイ霊を持ち帰ってしまったらしい。どの神社もこのヤバイ霊とは関わりたくないようだ。
「正直、その辺にある心霊スポットで連れてくるモノなんて高が知れてます。自殺者の霊だとか、怨念を抱いて死んだ者の恨みだとか、弱い力しか持たないケガレです。たった一人の人間が持つ恨みつらみなんて、簡単に祓える。ただし、ケガレの集合体は別です」
廃団地が建つ前にあった××山、近隣の村々に住んでいた人々が、何十、何百年とかけてそこに捨て続けてきたケガレ。××山には何千、何万という数の人間が抱いてきた負の感情が集まっている。「汚らわしい、近寄るな、むこうへ行け」死や災いを連想させるものを忌み嫌い、恐れ、人々はケガレを××山に捨ててきた。そう神主は語った。

(しかしなぜ、黒く焼け焦げた顔の女を団地から連れ帰ってしまったのか……。あの女の霊は元々トンネルにいたものだ。それに二年前、この神主の手によって除霊されたはず)
そんな私の疑問にも神主は答えを持っていた。

神主はすぐそこの駐車場にある自販機で、温かい飲み物を一本買ってくれた。夏だというのに、「あたたかい」が売ってある奇妙な自販機だった。
二年前に私の体から取り払われた女の霊は、消滅したわけでも成仏したわけでもない、と神主は語る。私の体に紐付いていた女との縁を、お祓いによって断ち切ったに過ぎないらしい。
『お祓い』とはケガレをそそぐもの。死や災いを人間の体から遠ざけるもの。人の体からケガレを追い出し、どこかへ追いやってしまう。そう神主は説明した。
「二年前にあなたの体から追い払った女の霊はトンネルに戻らずに廃団地へと向かった。ケガレが吹き溜まる団地に引き寄せられた」神主が言うには、恨みを持った魂や怨念は、似たような負の感情を帯びた場所を好み、集まるのだという。
「私が団地に行ってしまったことで再び女との縁ができた?」お茶を飲み、ほんの少しだけ落ち着いた私は神主に聞く。
女の霊と、団地にいたケガレの集合体の両方に縁ができた。ケガレの集合体は『黒く焼け焦げた顔の女』の形を借りて、私の後方に実体を持った姿で現れた。本来ならば、『××山』がケガレを集めて外に逃さない結界の役割を果たしていたのだが、団地を作るときに建築業者が山を切り崩した。これがマズかったらしい。山域という結界を失い、ケガレの集合体は暴走した。住む場所を失い、人から人へと次々と取り憑いた。しかし『××山』と違って人間の体には巨大な力を持つケガレを受け止める耐久力はない。取り憑かれた者は例外なく体を壊された。
取り憑く相手を求めてさまよっていたケガレの集合体は、団地に入ってきた私を見つけ、そして取り憑いた。
「祓ってくれ、私の体からなんとか追い払ってくれ」私は神主に泣きついた。

「無理ですよ、あなた、ケガレの集約地になっていますから」
ケガレの住処、昔は「××山」 、今は「私の体」。なんだ、もう助からないのか。だから、「もう遅い」と神主は言ったのか。
私は取り憑かれたのではく、私自身が霊の住む家になってしまった。霊の集まる場所になってしまった。ケガレたちが私を新たな『ケガレの集約地』に選んだ。私自身が心霊スポットになったようなものか……
祓っても、何度追い払っても、また私の体に霊たちは帰ってくる。ケガレは私の体に帰ってくる。
ハハ、ハハハハーー
おかしかった。
空き缶を思いっきり遠くへ投げ捨てる。
哀れなものを見るような目をしている神主に向かって、「助けろよ、頼むから助けてくれ」と私は怒ったように言う。
神主は何も言わず、私に背を向けて鳥居の内側へと去っていった。
やはり私は助からないらしい。
神主を追いかけて助けを乞うても無駄だろう。

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コメント(22)
  • ケガレか…

    2021/01/18/18:25
  • あえて書くけど普通の神社に除霊出来る所は無いからね。
    除霊の概念もない。副業でやってるのは密教系の寺くらいか。
    そこも霊力ある坊さん居るとは限らない。

    つまり病院と違って気軽に祓える所なんてほぼない。
    それを踏まえた上で心霊スポット行くんだね。

    2021/01/19/12:06
  • この世のもので無いのを、どうしてこの世のものがどうにか出来ると思っているの?

    2021/01/22/13:06
  • 神社の方は俗に言う「あの世」を彼岸とは言わないはずですが。
    心霊が好きならばその辺りも勉強しておくと良いですね。

    2021/01/22/19:11
  • 主人公は「除霊」って言葉使ってるけど、神主はちゃんと「お祓い」って言ってて「徐霊」の言葉を使ってない。
    その辺を分けて書いてあるのが良かったです

    2021/01/22/19:41
  • す…スイカの名産地…

    2021/01/29/03:09
  • 除霊と浄霊は違うんだったかな
    除霊ならまた憑いちゃう可能性あると思う…

    2021/01/29/17:14
  • XX山並みの霊力を主人公が持っていればケガレ集合体の受け皿となって、悪霊使いになれそう

    2021/02/14/23:00
  • >> 実際は大丈夫だ。ヤバイものを連れ帰ったときは神社の神主(かんぬし)が何とかしてくれる。

    ここめちゃくちゃ自己中で好き

    2021/02/14/23:27
  • お前さん そのうち死ぬよ
    取り付かれ易い体質なんだから

    2021/02/16/03:23
  • 結果的に他力本願、祓ってもらえばいいしーみたいな感じなあたり全く同情できないし、こんな人が懲りずに心スポ巡りして厄介持ち込むんだから迷惑も甚だしい。

    2021/02/16/19:23
  • 途中まで読んでてさ、ある童謡が頭に浮かんじゃったんだ。
    でも、茶化して万が一障りがあったらマズいし、思うに留めておこうと思ってコメント欄見てみたら、そのものズバリを書き込んであるのが目に飛び込んできた時は震えたね。

    もう、例のメロディの替え歌がさっきからリピートしまくってて止まらないんだよ。

    2021/03/14/00:31
  • 衰弱してるのにここまで文章書けるなら問題ないだろ、読み物としてはとても面白いです。

    2021/03/28/14:39
  • お祓いをしてくれる神社がそんな連絡しまくるみたいにたくさんあるとは思えないけど
    オカルト仲間たちも神主なら何とかしてくれるみたいに思ってスポット巡りしてるって書いてあったけどそんなに何回も来るような奴のお祓いを引き受けるかね
    高い金払ってたんならともかく
    いちいち取りついては祓われるケガレとやらが気の毒に感じる

    2021/03/28/16:36
  • 神道ごときに祓えるわけないだろ
    寺生まれのTさんならあるいは・・・!!

    2021/03/29/20:04
  • これを乗り越えれば君は立派なケガレマスターだ!

    2021/03/30/19:40
  • 心霊スポットって何が面白いのかわからなかったけど、なんとなくわかったような気がする。
    パワースポットとかの方がいいんじゃないかな?
    お祓いや徐霊よりもctや血液検査してもろたほうがいいんじゃないかな?
    なんか出てるんだろなぁ!

    2021/04/22/18:30
  • その女の人の声がが聞こえたと書かれていないのがよりそれらしさを感じる…

    2022/08/29/17:04
  • 凄く怖いかったです。

    2022/09/30/08:23
  • どの世界も一緒だね。存在を継続させるため、手段を選ばない。新型コロナも同じじゃん。ただ、一番えげつないのはケガレでもコロナでもなく、人間だけどね。

    2023/06/30/22:14
  • 最後、女とキスして一緒にあの世に行こうってなったら胸熱展開だったのにな

    2023/09/14/12:09
  • 性病にかかっても治してもらえばいいや
    って風俗通いしてた男の話を思い出した

    2023/10/12/19:36

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