北の国から

俺はこの研究所で、日々ウイルスやワクチンについて研究をしている。
世界中で猛威を振るっているウイルスに対抗できるワクチンを1日でも早く作らないといけないのだ。

そのウイルスはなかなか強力で、くしゃみ一つで人に感染させてしまう能力がある。
その能力で、その場にいる大勢の人たちを一度に感染させることもできる。

研究に忙殺されているある日の事、ある国から、国を上げて共同で開発したいという話が舞い込んだ。
これほどまでに世界中で感染しているから、国レベルで研究したいというのも頷ける。
しかし、俺は研究に没頭するあまり、世界情勢にあまり関心が無い。
その国の名前くらいは聞いたことはあるが、そこの科学技術については全く知らない。

所長は、最近までメールでやり取りをしていたらしい。
「くしゃみだけで大勢に感染させられるという能力について知りたい」
「飛沫の量がどれくらいで何人に感染するのか」
「仮に空からウイルスが飛んできたとしたら、どれぐらいの範囲に感染が広がるのか」
その国の代表はすごく積極的で、様々な質問をしてきたという。ウイルスに相当興味があったようだ。

しかし、所長はすぐにその話を断ったそうだ。
なぜ断ったのか尋ねると、その国の代表の写真を見せてくれた。
その男は太めの体形で、ちょっと変わった角刈りをしていた。
これほど積極的な国と一緒に研究すれば、かなり良いワクチンができたはずだ。本当にもったいない。