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妖怪・風習・伝奇

新ぺぺぺさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

子供の多い集落
長編 2023/05/24 21:32 13,423view
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私は田舎の出身です。単に地方都市の田舎といったような所ではなく、もはや里のような具合の集落でした。社会人になり都会に出てからも数年前まではお盆や年末年始の度に帰郷していました。その数年前に、帰省しなくなった理由があるのです。
都会に出て3年目のお盆、私は例年のように実家へと帰りました。前述のように私の出身は里のような田舎です。それも内陸部過ぎるという訳でもないので清流もなく、ただただ街まで遠い所に位置している山の麓の集落です。ですので、勿論避暑地のような場所とは違い、茹だるように蒸し暑い日本の夏でした。
実家まで運転して到着し、クーラーの効いた涼しい家の中で暇をしていました。そう、実家は意外と暇なのです。家族もお盆休みと言うことで家に居りましたが、今更家族とすることなんてありません。
「母さん、町おこしでもしてないのか?この辺は」
毎年の私の問いに母親は呆れたように
「夏はいつも△△△しかやってえへんでしょう?」
と答えました。
△△△(名前は伏せます)とは、伝統芸能の1つで、刀や薙刀を持ち、昔から伝えられてきた型を演武するというものです。皆さんも子供の頃やらされていた方も居られるでしょう。私も小中学校の頃は参加させられていたのです。
そして、私たちの町はお盆にその伝統芸能の祭りを催すのです。2日間、夜と昼に神社に集まり、大人も子供も演武をしたりするのですが、それを見る為に、あるいは屋台を目的に多少は人が集まります。
まあ、久し振りだし見に行ってみようかなと思い、取り敢えず財布とタバコだけ持って神社まで歩きました。お盆に加えお祭り初日の夜ということで、缶ビールを片手に歩いている人も見られ、田舎の割には少しは賑わっていました。

さて、今の子供達の演武でも見るか、と境内の少し奥へ歩を進めてぼぅっと眺めていました。そう、この町は田舎では珍しく少子化の波を受けていないので、子供達は割と多いのです。

懐かしいな。俺もやらされてたな。そうそう、中学校からは若衆扱いで、着る格好が違うんだよな。

なんてことを思っていましたが、少しタバコを吸いたくなったので境内から出て、脇の小道で一服していました。すると、馬を引き連れたその伝統芸の関係者達が小道を通って神社の拝殿の裏口の方へと行きました。彼らは皆、白装束を着て、行列になって歩いて行きます。そう、この祭りには中年くらいになったその伝統芸能関係者の男は白装束を着て何かをする儀式があるのです。何をやっているかは分からないですが、私の父もこの儀式に参加したことがあるのを思い出せます。
拝殿の奥には、またさらに小さな神社(本殿?)のようなものがあり、私も演武の前に、模擬刀などを清める儀式をする為に入ったことはあります。ただ、白装束の行列が本殿まで来たことはなかったと記憶しております。
もちろん、そんなものを見れば気になりますよね。タバコの火を消し、行列が拝殿に入っていったのを確認してから中を覗きに行きました。彼らは本殿の方に集まっていて、何やらヒソヒソと話しているようでした。
何するんだろうなぁ
と再びタバコに火を付けて見ることにしました。
すると突然
「ヒィィィン‼︎」
という声が聞こえました。パッと目をやると、何と白装束の中の1人がハンマーのような物で馬の頭を殴っていたのです。しかも、一回での撲殺に失敗したのか、馬は

「ブルルルッ」
とひ弱な鳴き声を上げています。そこにさらにハンマーで追い討ちをかけ、馬は息絶えたようでした。私は一気に緊張して汗をかき、急いでタバコの火を消しました。辺りは妙に静かなのに、演武奉納の見物客は少し遠くで賑わっていて馬の鳴き声など聞こえないのでしょう。関係者以外、私だけが見ているかも知れないこの状況に心臓が正直に拍動を速くしています。

こいつら馬を殺したぞ…これなんかの法に触るだろ…

頭は努めて冷静にしようとしました。ただ、その場を後にしようとしましたが、私の脚は動こうとしませんでした。
その白装束の男性は何かを指示すると、何人かがその伝統芸で使う刀を持ってきて馬の腹を裂き始めました。

何だ、あれ模擬刀じゃないのかよ!

そんな事を思う暇もなく、腹の中の臓物が見えてくると、1人がグチャグチャとそれを食べ始めました。とても不味そうな顔をして食べています。
私は決して音を立てぬようにじっとしていましたが、この不快な暑さで全身を汗が纏わり付いているというのに、私の腕は鳥肌が立っていました。
そうして息を潜めて見ていると、彼らは演武を始めました。馬の内蔵を食べた人と、食べてない人との2人組での演舞のようです。しかし、内臓を食べた人は何も持たず、素手で型を始めようとしています。
私が違和感に面食らっていると、それは始まりました。演武などではなかったのです。そして、使われる武器は模擬刀でもなかったのです。
それは純然たる殺人でした。決められている型通りに馬を食べた人を斬り倒したのです。
私は声を上げそうになりました。

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コメント(8)
  • 生贄の対象が、結婚しないから、子どもが居ないからという理由だったら恐ろしすぎる…
    殺された方は、そんな自分の運命を受け入れていたのか…自我があるなら拒絶し抵抗しそうなものなのに…

    2023/05/24/22:32
  • とても怖かったです。
    そして最後の一行で泣きました。

    2023/05/24/22:35
  • 投稿主です。
    最後の1行だけは脚色も誇張もない等身大の真実です。

    2023/05/24/22:57
  • こんな風習が日本のある地域でひっそりと行われている自体が怖い。どこの地域かは知りたいけど…

    2023/05/24/23:45
  • 最初のコメントの方
    そうですね。しかし、ずっと田舎に残っている人からしたらそこだけが世界なのかも知れません。学校でいじめに遭っている子供が自ら命を絶つ選択をするように、他に選択肢がなかったのかも知れないですね。

    2023/05/25/00:05
  • まだまだ知らない風習があるんですね。
    残酷でしか無いですけど。

    2023/05/25/00:27
  • 逆に完全な創作なら、田舎の印象をますます悪くする。

    2023/06/11/05:20
  • 百物語みたいな語り方でおもしろかった

    2023/12/12/10:23

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