子供の多い集落

ダメだ、緊張を抑えないと！タバコだ、タバコを吸って落ち着こう。

震える手でタバコに火を付け、急いで吸い込みます。しかし、緊張と焦りでむせてしまったのです。かなりの勢いで咳き込んでしまいました。
「やばい！」
と思い、本殿の方を柵の隙間から覗くと、白装束の全員が目を見開き、真顔でこちらを見ています。
もうそこからは必死の思いで身体を無理やし動かし走って逃げました。タバコなんてポイ捨てしました。（許して下さい）
流石に中年男性より筋力と体力があったのか、全く追いつかれる気配もなく（そもそも追いかけられていたのかどうかも分かりません）、家に到着することができました。

私は家族にこの話をすることはしませんでした。何故なら、先ほども言ったように父親がこの儀式に参加したことがあるかも知れないからです。少なくとも白装束を着て行列を成している所は見たことがあります。私はさっさと風呂に入り、晩御飯も食べれる訳ないのでとっとと寝ました。正直あまり寝れませんでしたが。

翌日、私は自分の父親も今は信用できない状況にあることに気付きました。朝早くから起きている母親にだけもう帰るとういう事を伝え、車に乗って帰りました。

数日後のお盆休みの最終日、私が実家に社用携帯を置いて行ってしまった事に気づきました。母親に連絡し、本当に嫌でしたが取りに帰ることにしました。
到着し、携帯を取ってそそくさと帰ろうとしましたが、母親が世間話をします。
「〇〇さん行方不明なっとるって」
そうですか、なんでもいいから早く帰らせてくれ、と聞き流していました。
「ご両親も亡くなっとらっせるし、嫁さんもおらんもんですぐに分からんかったらしいわ」

少し、いや凄く勘が働きました。よく考えたらこんな田舎で行方不明なんて大ニュースじゃないか？それにこの時期…

私の中ではもう確信していました。その〇〇さんが誰かは知りませんでしたが、きっとあの白装束を着て馬の内蔵を食べた後殺された中年男性のことでしょう。
母親が続けます。
「この辺で結婚しんで子供おらんのも珍しいでなんか嫌になったんかやぁ」

そう。この町は子供が多い。あの人は子供がいなかったのか。

行方不明？そいつはあの拝殿にずっとあるはずだ。
そもそも目的は何だったんだ？中年になっても子供がいないから殺されたのか？子供がいれば殺されないから子供が多いのか？この集落を存続させる為に？あるいは伝統芸能を存続させる為か？

一体どこまでが私の妄想で推測なのか分からなくなりそうでした。しかし、あの夜に見た光景は間違いなく確かで、あの殺された人が望んでいたような事ではなかったように思います。

それ以来、私は自分の父親が信用できなくなり、故郷に戻ることはなくなりました。何分、私も結婚する相手など当分見つかりそうにないもので。