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心霊

タングステンの心さんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

いつも、いつも、同じ顔
長編 2022/01/14 19:59 2,379view
顔が見える。
いつも、同じ顔。

私はごくふつうの会社員をして暮らしていた。ろくに趣味と言えるようなものもないのだが、仕事から帰ってくると決まって、動画サイトで心霊スポットを探索したり心霊写真を紹介したりする、怖い動画を観ている。子どものころから怖い話は大好きだった。しかし、いいトシをしてあまり周囲のひとに大きな声で話せるような趣味でもない。

近頃、私が怖い思いをしているのは、まさにそうした動画のせいだ…と思う。

妻子が寝室に引っ込んでから、いつもどおり、怖い動画を観ていたときのことだった。その日に見ていたのも何の変哲もない(?)心霊写真だった。家族団らんの風景を写したもので、モザイク越しにも幸せそうに見える一家の右側、奥まったところにあるちゃぶ台の下から、明らかに家族の一員のものではない顔がこちらを見ているのが、やけに鮮明に写っていた。

「うわあ、これはまた…はっきりと写ってますねえ」

司会の配信者がやや芝居がかった調子でコメントする。確かに、壁や天井の染みがぼんやりと顔らしく見える、というのとはちがって、ちゃぶ台の下なのに妙に明るく、はっきりとした表情を読み取ることができた。女性の顔に見える。微かに笑っているようにも見える、なにかこちらをばかにしたような表情。だが、いまどきこんな合成みたいな写真ではなにも怖くなどない。そう思ったとき、カメラを担当していて、いつも顔の映らない司会者の相棒が言った。

「実はですねえ、今回はこれだけではないんです」
「…と、言いますと?」
「とにかく、こちらのお写真をごらんください」

別の写真が画面に映し出される。どうやら先ほどとは別のひとたちが撮影したものらしい。顔はやはりモザイク加工されていてよくわからないが、大学生くらいの若者が三人集まって、パーティーをしているようだ。暗い部屋でケーキにささったロウソクが輝いている。そして、左の二人のあいだには、前の写真と同じようにはっきりとした顔が写っている。

「え…」

司会者といっしょに私も息をのんだ。

「これって…」
「先ほどの投稿者さまとは別の方からのお写真です」
「でも、これ…」

司会者がことばに詰まっている。無理もないことだと思う。そこに写っていたのは…

「同じ、顔ですよね、これ…」
「そうなんです。まったく無関係の二組の投稿者さまから送られてきたんですが」
「同じ顔だ。同じだ。なにこれ、怖いよ」

気持ち悪いこともあるものだな、と思った。でも、酒を飲みながら動画を観ていたということもあり、そのときはそれきり忘れてしまっていた。

それから、二、三日経っただろうか。同じ週のことだったと思う。私は特定の配信者というよりも、何人かの配信者の動画をハシゴして視聴している。その日は例の配信者とは別のひとの動画を観ていた。また心霊写真を紹介する動画だったのだが、またしても出くわしてしまったのだった。あのときとまったく同じ、妙に白っぽい、ひとを小ばかにしたような女の顔に。もっとも、写真そのものはまったくの別物だ。投稿者が旅行に行ったときに撮影したものなのだそうで、バイクで旅行をする男性がスマホで自分の姿を撮影した写真だった。こんなことがあるものだろうか。

さすがに、怖い話には目がない私でも気味が悪くなってきた。それから、しばらくのあいだは心霊写真の動画を観るのはやめておくことにした。

それでも、私は怖い話が好きだ。心霊写真の動画はやめておくことにしたものの、他のジャンルの怖い動画はあいかわらず視聴していた。たとえば、この話の最初にも触れた心霊スポットを探索する動画だ。配信者が数名のグループでいわくつきの廃墟などを探索するようすを動画に収めたものだ。けれども、数日のうちにこういう動画も私は見るのが怖くなってしまった。

人影らしきものが映り込むと、「REPLAY」などとテロップが出て、再度スローモーションでその場面が流れるのはよくある演出だ。そこでも、私はあれを見てしまった。「同時に女性のうめき声が…」などと言って、配信者は騒いでいるが、「女性のうめき声」どころではない。一瞬だけ、ちらと映った女性らしき人影の顔は、写真ほど鮮明でないにしてもやはり。嫌なニヤニヤ笑いを浮かべるあの女だったのだ。

そこからはもう、なにが何だか自分でもよくわからない。画面の中でも外でも、あちこちであれを見かけるようになってしまった。最初は自宅の洗面台に付いている鏡だった。歯磨きをしていると廊下の奥の物陰からあれが覗き込んでいる。最近疲れているし、きっと気のせいだと自分に言い聞かせてつとめて見ないようにしていても、今度は流しの蛇口に写っている。たまりかねた私が相談しても、家族はなにも見えないと言い張る。

今回ばかりはさすがに懲りて、怖い動画など絶対に観ないようにしていても、気晴らしのつもりで観た食べ歩きの動画にまであれは映り込んでくる。何人もの通行人の顔に、あの女の顔がきっと紛れ込んでいる。電源の切れたパソコンやスマホの画面にもあれが映り込みそうで、もう画面を見るのも嫌だ。そのあたりからだったろう。もう夜だけではなく、明るい時間でも気が抜けなくなってしまった。

職場に行くときには、電車のなかがとても恐ろしい場所になった。満員電車のなかで、視界の端に入る乗客の一団のなかにあの顔がこちらを見ているのに気づくようになってしまった。もっとも、目を離した隙に場所がまったく変わっていておどろかされることがあるほかには、ニヤニヤしながらこちらを見ているばかりで特になにかされるというわけでもないのだが。職場に着いてからも、パソコン画面を見ないわけにはいかないから困るのだけれども(暗転した画面に反射してあれが映るかもしれない)、問題はそればかりではない。会社の事務室で、窓のへりから覗いているあれと目が合ってしまったこともある。同僚に変な顔をされつつブラインドを閉めても、まだそこにあれがいる気がして駄目だ。第一、ブラインドを閉めたところで、なにかの拍子に同僚がブラインドを開けたとたんにあれと目が合ったりしたら…。そう思うと、会社からはだんだんと足が遠のいていった。

病休が続くなか、私はとうとう病院に通う羽目になった。医師は私にいろいろと質問をしたり、検査らしいことをしたりして、どうしても私を何とかという「病気」にしたいらしかった。

休職同然のありさまで(休みがつづいているので、現にもう少ししたら会社から正式に休職を申し渡される)、一日中、部屋で過ごすしかない私にはいまや時間は有り余っている。スマホで調べるかぎり、私は自分の見ている幻覚と現実の区別がつかなくなった状態であり、つねに「見られている」ように感じて怯えて過ごしている。そして、自分は病気ではなくまともで、恐ろしいことが起こっていることを周りのひとたちが信じてくれないと思っている。「病識のない患者」そのものではないか。
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コメント(1)
  • 最後怖…

    2022/06/22/14:30

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