予告する匂い

あれは私が通勤中に車を運転していたときのことでした。

閉め切った車内で、急に妙な匂いがしてきたのです。それはどうもインクの匂いのようでした。子どものころに読んでいた、あのザラ紙に印刷した漫画雑誌みたいな、ツンとした匂いです。匂いの元は特に思い当たりません。突然、右目の奥が鈍く痛みだして、気分が悪くなってきました。

近くのコンビニに車を停めて、少し休みました。匂いのようなものはすぐに感じられなくなっていきましたが、頭の痛みは残りました。それでも、いまは職場に向かわなくてはなりません。がまんして車を出すことにしました。

田舎道を飛ばしていくと、路上にピンク色のかたまりが落ちていました。暖かくなってきたせいでしょうか。しばらくは見かけなかった猫の轢死体です。全身をひどく打ったものらしく、二、三のかたまりになって散らばっていました。すぐ近くを通って前足らしきものが見えるまで、私自身それと認識できなかったほどです。

車が少し揺れました。恐らく、一部を踏んでしまったのでしょう。

それからです。よくインクの匂いがするようになったのは。ツンとしたあの匂いを、私はときおり感じるようになりました。どうしてそんな匂いがするのか、医者に相談してもわからずじまいです。

そしてどういうわけか、あの匂いを感じるたびに、私はいつも猫の死体を路上に見かけるようになりました。