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不思議体験

とくのしんさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

悲しい親子
長編 2022/12/01 09:34 8,400view
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30歳という節目を迎えた健康診断の結果が届いた。
・・・軒並み数字が悪くなっていた。血圧は高いし、コレステロール値も高い。要再検査?
いやいや、すぐに死ぬわけじゃないし再検査はいいでしょ、とまぁ強がってみても少しは気になるわけで。そんな結果を受けて、周りから運動をするよう促された。

そこで我が家の愛犬と共に、出勤前と帰宅後の2回散歩することにした。これなら金もかからず一石二鳥。ジムに通うのも何だか敷居が高いし。それに三日坊主の俺も愛犬との散歩なら何とか続きそうだ。しかし愛犬は俗にいう大型犬の類で、散歩に難がある。細かいことは省略するが、まぁ”やんちゃ“といえば何となく察しはつくと思う。

やんちゃな犬の散歩は大変だ。休みの日など普段は車で人気のない場所まで連れて行って散歩をするのだが、出勤前にそれは難しい。歩いて行ける散歩コースはいくつかあって、そのうちの一つに河川敷を整備した公園がある。所謂ビオトープってヤツだ。堤防には遊歩道が整備されており、堤防を上ると眼下に公園が広がる。公園内外に河畔林が広がり、自然を身近に感じられる人気スポットだ。余談だが時期になると高齢者がバードウォッチングのため高額なカメラを挙って持ち寄り、一種の自慢大会が開催されることでも有名。
そんな人気スポットとはいえ、早朝6時前後であればまだ人気が少なく、それほど気を使って散歩をしなくて済むため、俺はこの場所で散歩を始めることにした。

季節は秋口、朝は少し冷えているそんな時期。散歩を始めて間もない頃、とある親子を見かける。3歳くらいの男の子とベビーカーを押す母親という組み合わせ。早朝から散歩とは、お母さん偉いなぁなんてことを思いながら遠目で眺める。母親は薄い緑色のカーディガンに白いスカート、髪は肩程の長さ。服装の感じから30代半ばくらいだろうか。
男の子は赤いジャンパーに同系色のズボンを履いていた。男の子のズボンと同系色のベビーカー。特に変わった様子はない・・・ないのだが何故か妙に印象に残ったのを記憶している。

それから1週間程経ったある日、再びあの親子を見かけた。奇遇なことに前回見かけたときと全く同じ服装。それから何度も親子と遭遇することになったが、不思議なことに毎度同じ服装なのだ。余程気に入った服なのか、それとも散歩のときはその服装と決めているのか、それとも生活苦でろくに服を持っていないのか?それとも・・・もしかして幽霊?などなど・・・そんな妄想を見かける度にしていた。

季節が冬になった頃、たまたま早く目が覚めた日があった。

二度寝をすると犬の散歩が億劫になってしまうからと、ほぼ寝起きのままに犬を連れて河川敷へと向かった。河川敷付近は朝霧が立ち込めており、朝焼けの光がぼんやりと白い霧をオレンジ色に染め始めていた。あまりに幻想的な風景に、しばし立ち止まり、“あの世があればこんな場所なのかもしれない”と見入る程神秘的であった。

堤防を登り、公園を見下ろすとそこにあの親子がいた。
その日は特に冷え込む日というのに、秋口から変わらぬあの服装・・・俺はその姿を見て、この日ばかりはぞっとした。こんな気温であの薄手の恰好はさすがにないだろうと。軽い気持ちで“幽霊かも?”なんて思ったりしていたが、それが現実味を帯びてきた予感がした。

白く幻想的な公園内をゆっくりと親子は進んでいく。俺は迷うことなく親子を追いかけた。
多少怖さはあったが、それよりも好奇心が勝った。本当に幽霊なのかどうか確かめたい、親子の姿を後ろから眺めながら距離を詰めていく。親子の足取りは相変わらずゆっくりとしていた。
親子は遊歩道右手にある休憩所の東屋へ入っていく。手前の植え込みで姿は見えなくなったが、間違いなく東屋へと入っていくのを俺は見ていた。

ここで察しのいい方なら「どうせ消えたっていうんだろ」と思うはず。
そう、察しのとおり親子の姿は東屋にはなかった。植え込みに姿が隠れたとはいえ、東屋付近に隠れるような場所はない。東屋を突っ切ったとしても雑木林があるだけで、それもベビーカーを押して進める場所ではない。

霧が濃いとはいえ親子の姿はずっと見えていたし、東屋に入る直前の親子との距離は十数mだったことを考えても、仮に遊歩道に戻れば見落とすことはないはず。

やはり幽霊だったのか・・・いやいやそれともやっぱり見間違えたか・・・?と半信半疑でモヤモヤしながら散歩を再開すると、前方から高齢の男性が歩いてきた。

「おはようございます」
男性の挨拶に俺は咄嗟に親子の事を訊いた。
「おはようございます。つかぬことを伺いますが、この先でベビーカーを押した女性を見かけませんでしたか?3歳くらいの男の子を連れていたと思うんですが」
「ずっと歩いてきたけど、そういった親子連れは見ていないなぁ。その人がどうかしたのかい?」
「いや、そういうわけじゃないんですが。すみません、ありがとうございました」
男性は怪訝な表情で俺を見ていたが、どうやら嘘をついている様子はない。嘘をつく理由もないんだから当然なのだが。あの親子の正体は結局わからず仕舞いだったが、この日を境にきっと幽霊の類だろうという結論に心は傾き始めていた。

それからしばらく親子を見かけることはなかった。年末に差し掛かった頃、会社も仕事納めを無事迎え、俺は冬季休みを満喫していた。そんなある日、いつも犬の散歩で使っている車を、親父が急遽使うという。どこに連れて行こうか思案していたところに車が使用できない。時刻は夕方・・・早くしないと暗くなってしまうため、仕方なくビオトープに向かうことにした。

冬の夕暮れは早くPM16時過ぎで既に薄暗くなっていた。河畔林に囲まれた公園内は外灯一つないため不気味な雰囲気を漂わせている。そのため公園内には立ち入らず堤防で散歩を済ませようと思い歩いていたときだった。

あの親子だ・・・

夕暮れ時の薄暗い公園内を、いつもと変わらぬ恰好でいつもと同じ様子で歩いている。その姿に俺は総毛だつものを感じた。陽が落ちかけた公園は木々が風に揺れるなか、平然と歩いている。親子がもし本当に幽霊だったら・・・という恐怖と好奇心が俺の心の中で鬩ぎあっていた。

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