見通しの良い交差点で
投稿者:佐木乃 (4)
友達と4人で、車に乗って遠方へ出掛けました。気持ちの良い晴天の日に、4人用のワゴン車を運転して。
わたしは後部座席に着いて、友達と気ままに喋ったり、窓から景色を眺めたり、そうするうちに、気分がゆったりとしてきて、いつの間にか、眠っていました。
ものすごい衝撃と音がして、言葉の通り、わたしは飛び起きました。友達を見ると、シートベルトに支えられながら、ぐったりと座席に寄りかかっていたり、前かがみにうつむいていたり、震えていたり。
見通しの良い交差点で、対向車線を直進していた軽自動車が、急に進路を逸らして、わたしたちの乗るワゴン車に正面衝突しました。
軽自動車には、年配の女性が一人で乗っていました。気の良さそうな、田舎のおばちゃん。
お互いの車の速度が、あまり出ていなかったこともあるのか、わたしたちと、軽自動車を運転していた年配の女性も、軽い打ち身くらいの怪我で済みました。車は、無残に壊れてしまったけれど。
そこは、とても見通しの良い交差点で、道路の脇に、お地蔵さまが祀られていたことをよく覚えています。事故の多い交差点だったのかもしれません。お地蔵さまのおかげで、誰も命を失わずに済んだのかも。
車を運転していた友人は、「あの軽自動車が進路を変えて、こっちに向かって来るとき、まるでスローモーションみたいに、いろんなものがゆっくりと、はっきりと見えた」、そんなふうに言っていました。
あのときの、軽自動車を運転していた年配の女性の、焦点の定まっていない、見開いた目つき。口元が引きつって硬直した表情。前のめりになって肩を強張らせて、ハンドルを両手で固く握りしめている、あの様子が忘れられない。友人はそう言って、弱々しくうなだれました。
あの年配の女性は、あの交差点で、なにか、おかしなものを見たのかもしれません。それで酷く取り乱して、運転を誤ったのかもしれません。
お地蔵さまを祀っていても、おかしなものが見えることがある。あの事故のことを振り返って、ふと、そんなふうに思いました。
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