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不思議体験

佐木乃さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

ブロマイドの人
短編 2024/03/06 17:47 1,982view
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わたしが小学生の頃、故郷の田舎町に住んでいた頃。ずいぶん昔の出来事です。

図画工作の授業で、似顔絵を描く宿題がありました。わたしは、母の顔を描きました。
わたしの友達が描いてきた絵は男の人だったけれど、友達が言うには、お父さんの顔ではなくて、「ブロマイドの人」だそうでした。

ブロマイドというのは、ハガキくらいの大きさの印画紙に映像を印刷したもの。そういうものだと思います。ハガキ写真というか。
テレビで観る有名人が、踊っていたり、歌っていたり、演じていたり、そういう様子がブロマイドになって売り出されて、とても人気がありました。シールのように貼れるものもありました。

友達が描いた似顔絵の人は有名人なのかと聞くと、「テレビで観たことはないけれど、住んでいる団地に貼ってあって、集合ポストにも投函されていた」そうで、わたしはその日、学校が終わると、友達のところへ遊びに行って、ブロマイドを一緒に見てみることにしました。

団地の敷地には共同住宅が何棟かあって、建物に囲まれた中心の辺りに、小さな公園がありました。すべり台やブランコ、鉄棒や平均台、いくつかのベンチが設置された、小さな遊び場。

友達に連れられて公園に着いて、言われるまま、遊具の目立たない箇所、陰になるところをよく探してみると、確かに、ブロマイドがひっそりと貼られていました。すべり台の降り口の裏側や、平均台の裏側に。

公園だけでなく、外灯の柱の陰、建物の壁面の陰、そういうところにも貼られていました。

ブロマイドは、小さな茂みの中に差し込まれていたり、階段に設置された消火器の裏に挟み込まれていたり、ゴミ箱に捨てられていたり。全部を合わせると、14枚くらいありました。

そのブロマイドに印刷されていたのは、これといった特徴のない顔立ちの40歳くらいの男の人が、笑っていたり、睨んでいたり、歯磨きをしていたり、タバコを吸っていたり、コップで何かを飲んでいたり、頬杖をついていたり、耳たぶを指先で引っ張っていたり、手のひらで顔を覆っていたり、そういう、顔の映像でした。

友達のポストに投函されていたものを見せてもらうと、その男の人が、薄目を開けて真っすぐに正面を見つめている、そんな映像が印刷されていました。
自分たちが知らないだけで、この男の人はとても人気があって有名なのだろう、そんなふうに思って、友達と遊んで日暮れに帰ったことを覚えています。

しばらく月日が過ぎて、学年が上がる頃に、友達は転校することが決まっていたので、団地から別の町へ引っ越しました。あの団地に立ち入ることもなくなりました。
その後も、ブロマイドの男の人をテレビなどで見かけることはありませんでした。
大人になって、時々、あのブロマイドの映像と、かつての友達が描いた似顔絵を思い出します。あの男の人の、特徴のない顔。

今は、故郷から遠く離れた、大きな町で一人暮らしをしています。そして、昨年に一度だけ、この町の駅前にある交差点で、あのブロマイドによく似た顔の男性と、すれ違ったことがあります。

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コメント(2)
  • YouTubeで聴きました。面白かったです。

    2024/03/10/21:03
  • どういうことだ?

    2024/03/26/23:16

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