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不思議体験

HPMPラブクラフトさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

失墜の放火魔
長編 2024/07/09 02:05 3,003view
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誰も知らない私の秘密
“汚物”それが私の呼び名。本当は桃花という可愛い名前が付いているのにクラスのみんなは誰一人としてそうは呼んでくれない。
そんな私の1日を紹介しよう。
朝起きて、学校に行くと上履きがない。机や椅子もないし、担任ですら私の敵。それだけじゃ終わらない。終わることのない罵声と暴力。教科書や筆箱はズタボロにされてゴミ箱へ。
そんな日々が今年で3年目になる。
今は夏休み。いじめの休息時間といったところだろうか。私は自分の部屋でぼんやりと考え事をしていた。リビングでは年がら年中喧嘩をしている両親の怒鳴り声が響いている。
もううんざりだった。正直なんで生きているのかが不思議なくらいだ。ただ死ぬのが怖いから生きている。それって生きてるって言うんだろうか。
「いちいちうるさいんだよ!今関係のない話を持ち出してくるな!!」
「あなただってそうでしょ!自分のこと棚にあげないでよ!」
全く。なんであんたらは結婚したんだ。クローゼットからリュックを取り出して、財布と本を数冊詰めた。リビングでにらみ合う二人を横目に私は家を出た。

こういう時は(というかほぼ毎日)図書館に行く。家の近くにある小さな図書館。こんな私でも受け入れてくれる安息の地。夏場でも冬場でもここの温度は変わらないし、空気感も変わらない。そして何より──。
「あ、また来てる。久しぶりだね。桃花さん」
私の名前を唯一呼んでくれる天谷あまやくんがいる。
「久しぶりって。一昨日ぶりだよ?」
「2日も、会わなかったんだよ。久しぶりでいいじゃん」
爽やかな笑顔で言われた。
茶髪の天然パーマで整った顔立ち。メガネがよく似合っていて、いつも茶色のセーターと黒いジーンズをはいてる天谷くん。正直言って、めちゃくちゃタイプだ。
彼と友達になったのは一年前。いじめの質がすごすぎてメンタル的に自殺を考えていたある日、何気なく寄ったこの図書館に彼はいた。いまと同じように4つあるテーブルの端っこに座って本を読んでいた。話したきっかけは覚えてない。気がついたら仲良くなってたって感じ。でも彼には本当の私は教えていない。いじめられてるなんて言えるわけもなく、元気で明るい人気者という真逆の人間で自己紹介をしてしまった。でもそのおかげで今がある。この関係は嘘によって成立している。罪悪感にかられる間もなく、彼から言葉が飛んでくる。
「ねぇ桃花さん。いつもの面白い話聞かせてくれないかな」
さぁ、この爆弾はどう処理しましょうか。バカな頭で考えても答えなんて出ないので、私の学校生活を反転させて話します。

「そうだねぇ、この前は下駄箱にラブレターが入ってたんだ」
嘘だ。入っているのはありえない量の悪口が書かれたルーズリーフだ。
「休み時間は仲いい子たちとちょっとエロい話したりー」
嘘だ。罵声を浴びせ続けられてるだけ。
「昼休みはクラスみんなで鬼ごっこするのが日課でさ」
嘘だ。汚物がうつるってなすりつけあいが始まるだけ。
そんな調子でいろんな嘘が本当の私を埋めていく。自分で言ってて悲しくなるのはもうなれたけど。
「本当に楽しそうでいいなぁ…羨ましいよ」
はぁ、っとため息をついて天谷くんが笑う。皮肉にしか聞こえないけどね。きっと彼はもっと楽しい1日を送っているはず。

今日この日まではそう思ってた。でも違った。
「僕とは正反対だ」
彼のその一言が私の運命を大きく変える。

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コメント(1)
  • 気持ちの言語化が素晴らしいです

    2024/07/09/16:36

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