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不思議体験

とくのしんさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

サイレン
長編 2024/03/01 09:58 13,234view
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沢田の餌に食いつき、木村は同行することに決まった。

当日、二人は各々の愛車であるバイクに跨り早朝に出発した。どちらもバイクが共通の趣味であり、ツーリング仲間としても活動することは多い。途中、高速道路のSAや道の駅などに立ち寄りながらマイペースに目的地に向かう。現地入りしたのは午後1時に差し掛かろうかという時間。チェックインには少し早いこともあり、沢田の提案で目的地である炭鉱跡の下見をすることにした。

ネットの情報を頼りに目的地に向かうと、入り口と思われる山道が封鎖されていた。大きく立ち入り禁止の看板が設置され、道はバリケードで塞がれている。バイクをバリケード前に停車させ、二人はバリケードを乗り越えて炭鉱跡を目指した。舗装路は荒れに荒れ、草木は伸び放題。人を拒むかのような雰囲気さえ漂わせる炭鉱跡へと続く道を二人は言葉少なに進んだ。

歩くこと30分、炭鉱町跡の廃墟群が見えてきた。それは想像以上に当時の面影を残していた。広く多くの廃墟が立ち並ぶその朽ちた街並みから、かつてそこは活気が溢れていたであろうことが想像できた。廃墟に興味すらなかった木村ですら、その存在感に圧倒されノスタルジーに浸っていた。

「旅館でチェックインして、夕方にもう一度訪れよう」

下見を終えた沢田の言葉に従い、二人は炭鉱町跡を後にした。旅館につきチェックインを済ませて一休憩取ったあと、再度炭鉱町跡を目指した。炭鉱町跡まではバイクで30分程とそれほど遠くない。軽やかに山道を進んだ後、封鎖された入口へと無事ついた。

眼前に広がる炭鉱町跡を再び訪れ、沢田の足取りは実に軽快であった。高揚感からか沢田はどんどん先へ進んでいく。そんな沢田に木村はついていくのがやっとな程だ。確かにこの炭鉱町跡は想像以上だ。進めば進むほど感傷に浸っていく自分がいる。没入感も半端ない。自分がこの炭鉱町の住人であったかのような錯覚すらしてしまう程に。

目の前に広がる廃墟群の数々に、再訪した二人は圧倒されながら其処かしこを見て回った。沢田はいかにも高そうな一眼レフで廃墟の様子を写真に収めていく。木村はスマホで写真を撮っていった。

「本当に凄いなここは・・・」

そう声を漏らす程、廃墟童貞の木村の心に迫るものがあったという。昭和初期に栄えたというこの炭鉱町は、かつて多くの人たちが生活をしていた。良質な石炭により町は栄え、多くの労働者が仕事を求め移り住んだ。しかし、時代の波に翻弄され、役目を終えた炭鉱町跡に残るのは、当時の面影と夢の残骸だけである。

「来てよかっただろう?」

物思いに耽る木村を見て、満足そうに沢田は声をかけた。木村は鼻息荒く黙って頷き、立ち並ぶ廃墟から差し込む夕日を眺めていたときだった。

急に“ズズン”と何かが身体に重くのしかかるような感覚に襲われた。沢田もそれを感じたようで、お互いの視線が交差した。奇妙な感覚に襲われると同時に、まるで漫画のワンシーンのように何羽ものカラスが鳴きながら飛び立っていく。それまで穏やかだった空気が一変したのを感じ取った二人は、その場から一歩も動けずにいた。夕日が沈みかけ、徐々に暗くなっていくのをただただ眺めていることしかできない。得体の知れない気配に身構えることしかできなかった。

《ウーーーーーーーーーー》

唐突に、どこからともなくサイレンの音が鳴り響いた。低く不気味なサイレンは、山間に囲まれた廃墟群を包むよう木霊する。まるで空襲警報のようなサイレンは、二人の恐怖を嘲笑うかのように鳴り続いていた。どれほどの時間鳴り続いていただろうか。その音がようやく鳴り止んだ。

「今の一体何だったんだ?」

「明らかにこの炭鉱跡のどこからから聞こえたよな?」

二人がサイレンについて話していると、不意に人の足音が聞こえた。

同時に二人は足音がした方向を向いた。しかし、そこに人の姿はない。

姿は無いが、足音だけが聞こえている。その足音は一人、また一人と増えていく。そして気が付けばまるで軍隊の行進のように膨れ上がっていた。

ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・

足音に混じりボソボソと話す人の声も聞こえる。だが、何を言っているかは聞き取れない。無数の足音と人の話し声が向かう先、それは廃墟奥の炭鉱へと続いていた。

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ」

恐怖に耐えきれなくなったのか、沢田が叫び声をあげた。金切声をあげながらその足音が向かう先へと走り出す。

「おい!ちょっ待てよ!」

2/5
コメント(8)
  • 他の投稿者には悪いですけど別格ですね。
    安定感があって毎回ハズレがない。

    2024/03/03/11:29
  • 心霊スポット系の怪談の中でも、ダントツに怖く、切なく、考えさせられる内容でした。この方の作品は、安定していてハズレがないですね。ノスタルジックな情景描写も、かつての繁栄を知るもののひとりとして、胸迫るものがありました。

    2024/03/03/19:22
  • 凄い。
    これを元にショートムービー作って欲しいレベル

    2024/03/08/12:43
  • 木村さんを伝聞調になった辺りから、何となく展開が読めましたが、物悲しく切ない感じがよかったです。炭鉱の町というところがいいですね。長崎出身の私、軍艦島は小さい頃生きました。

    2024/03/11/23:34
  • これは凄い。数ある投稿の中で群を抜いている。情景が目に浮かぶ。自分も物語の中に一緒にいるような、とても不思議な感じ。とにかく素晴らしい。ありがとうございました。

    2024/03/12/19:35
  • もうーーー、作品としての出来が素晴らしいです  タクシーが現れた時点で痺れた  そしてタクシー運転手のセリフがもう 予想通りながらまたまたしびれます! そのセリフの中身がホテルキャルフォルニア

    2024/03/26/10:16
  • たくさんのコメントと投票ありがとうございました。
    準大賞受賞することができて嬉しい限りです。
    お気に入りのYouTubeチャンネルで動画にしていただいて、何度も聞き返してしまいました(笑)
    動画にしてくれた編集者の方にも感謝です!

    2024/04/01/10:51
  • 鳥肌がたった
    何よりもすごかった。表現が天才

    2024/04/11/13:45

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