サケクレー

それからというもの、寝酒をする前にベランダに酒を置くようになった

気がつくとベランダからゴクゴクと酒を飲む音がする
朝にコップを回収すると、中身は入っていない
そんなことが繰り返された

※

それは日曜の夜だった
その日は極めてムシャクシャする一日だった

自分のミスで日曜なのに出勤となり、朝から怒られて謝ってばかりいた

夕方には帰れたが、その帰り道に、裕太とお腹が大きいその妻を見てしまった
妊婦は若く、とても綺麗な女性だった
2人は幸せそうで、出産前の性別診断でもしたのか、
「最初の子は女の子で良かった」

なんていう会話までしていた

通り過ぎてから振り返って睨みつけるも、2人は百合に気づかずに行ってしまった

※

家に帰って、最初の子は女の子と言っていた女の言葉を思い出した
最初って、まだ生んでないのにその後も裕太の子を生む気なの？裕太はずっと私の彼氏だったのに何て貪欲な女だろう！
裕太は私とは結婚すらしてくれなかったのに！
こっちは40才を過ぎてまだ独身なのに、なんであの女ばかり幸せを持って行くのか！
いや、1番許せないのは裕太だ！
結婚する気がないとか言ってたのに、妊娠したからって！相手はただの浮気相手じゃないの！
何で私ではないのよー！
怒りと悲しみで、百合は部屋中を転げ回った

『サケクレー』

ベランダから声がした
そういえば今日は、酒を出すのを忘れていた

いつものようにコップに清酒を注いで、ベランダのドアを開けようとしたが、百合はそこで立ち止まった
『サケクレー』
「ねぇ、お酒欲しい？」
『サケクレー』
「散々、ただでお酒を飲ませてやったじゃない！」　
『サケクレー』
「酒代はお金でなく行動で払ってね。裕太を殺して」
この時、百合はまだ酒を飲んでいなかった
「やってくれなきゃ、お酒はあげないけど、どうする？」
『サケクレー』
「あげるから、絶対、殺ってね」
そう言って、百合はドアを開けた