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不思議体験

綿貫 一さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

ドタッ
長編 2023/12/20 20:49 4,395view
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私は、話に聞き入っている間に乾いてしまった刺身を、自分の皿に取りながら尋ねた。

「うーん。
僕はそれまで、自分に所謂『霊感』ってやつはないと思っていたから、正直混乱したね。
でも、ずっと聞こえていた物音と、倒れる男の姿は、自分の中でぴったりハマったんだなぁ。
『ああ、これだったんだ』って、妙に納得しちゃって。
だから、勘違いや見間違いじゃなくて、心霊的なやつなのかな、と思ったんだよね――」

さすがに気味が悪くなったIさんは、引っ越しを考えたという。

「じゃあ、過去にその……そこで誰かが亡くなっていたんですかね?」

私が遠慮がちに訊くと、

「『事故物件』かってことでしょ? 

もちろん気になったから、不動産屋に確認したよ」

Iさんはあっさり答えた。

しかし、不動産屋からは「あの部屋で人が亡くなったことはない」との回答が返ってきた。
小説や映画で、「ある部屋で何か事件があって人が亡くなっていても、不動産屋としては、次に借りる人以外には説明しなくてよい」みたいなことを見た気がしたので、さらに突っ込んで訊いてみたが、答えは同じだったという。

「しまいには不動産屋のオヤジ、怒り出しちゃってさ。
『事件だろうが、自殺だろうが、病気であろうが、あの部屋に入居している間に住人が亡くなったことはない。俺は誰よりも、この街のことをよく知ってるんだ!』なんてね。
まあとにかく、事故物件じゃないってことだったよ――」

では、Iさんが見たり聞いたりしたことはなんだったのだろう。
まぁ本来、奇怪な出来事のすべてに、納得のいく理由が見つかるものではないのかもしれない。
だからこそ、それらは「不思議だね」という話になるのだ。

私がそんなような趣旨のことを言うと、「いやいや」と、Iさんは暗い顔で笑った。

「それがさぁ、わかったんだよね。
不動産屋に行った、一週間後くらいに――」

§

§

その日、Iさんは仕事の付き合いで飲み会があり、帰宅が深夜になったという。
妻はすでに寝ていた。

金曜日の夜だったこともあり、なんだか開放的な気分になっていたIさんは、なぜか急に、例の物置部屋に積みっぱなしになっていた空の段ボールを、紐で縛って片付けてやろうと思い立った。
翌朝、妻が目を覚ました時、「あなた、片付けておいてくれたの?」なんて言って、驚く場面を想像して、ニヤニヤしていたそうだ。

あんなに不審に思っていた物置部屋だったのに、不動産屋に「死んだ人間はいない」と太鼓判を押されたことで、すっかり恐怖心は薄らいでいた。
少なくとも、酒に酔っていたその時は。

3/5
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