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心霊

amazakeさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

夢
短編 2021/03/10 19:03 1,935view

最近、友人が変な夢を見るのだと言う。
なんでも、気がつくと自室のベッドに倒れ込んでいて、決まって外から救急車のサイレンの音がするのだそうだ。そこでベランダに出てみると、自分そっくりの男が「おい。」という叫び声と共に目の前を真っ逆さまに落ちていく。彼はそこで目を覚ますらしい。

僕は度々彼と連絡をとっては、行きつけの喫茶店でその「夢」について聞いていた。心配だから、と言うよりかは、好奇心の方が強かった。彼が言うには毎日、多少は夢の中で起きる現象に変化が伴いつつも、大まかな流れは前述した通りの内容になるようだ。

そんな心地の悪い夢を毎日同じように見せられるのだから、彼も相当疲れているようで、日に日に元気がなくなっていっていくのが、外見からだけでも十分に見て取れた。

「その、おいっていう言葉は、おまえに何を訴えているんだと思う?」

ある日の午後、彼とまたこの喫茶店で待ち合わせた。彼は両肘を立てながら俯いて、

「わからない。ただ、今日の夢ではぼくは高校生だったんだ。」

と言った。

「ぼくは期末考査を控える高校2年生で、同じマンションに住む見ず知らずの奴を友人と呼んで、そいつと通話をしてるんだ。」

「いつもと違う夢を見たのか?」

僕の問いに、彼は首を横に振る。

「いや、そのあとあの、おいって声が聞こえてきて、怖くなって電話を切るんだ。それからの流れはいつもと一緒。ベッドにうつ伏せに倒れて、そこでサイレンが聞こえてきて。」

そう言いながら、彼はハッとして顔を上げた。

「待て。ぼくはあの時、担架に担がれたやつの顔を見たんだ。そうだ。あいつは・・・。」

「誰だったんだ?」

「・・・わからない。顔は覚えてるけど、思い出したくないほど奇妙に歪んでいて、僕の方を見て傷だらけの目と口を大きく開いたんだ。夢の中では確かにそいつを、友人だと認識したのに。」

「妙だな。鮮明に顔まで思い出せるのに、それが知らない奴だって言うのか。」

「知らない。と思う。うちのマンションにもあんな奴はいないはずだ。」

僕は腕組みをして椅子にもたれる。彼のこんな話を、僕はこの場所で幾度となく聞いてきたが、今回のが一番変則的な夢だった。正直、彼の話は百パーセント盲信できる訳では無い。極端にヘンな夢という訳では無いけれど、それでも信じきって、彼のことをやたらめったらに心配するには、僕のプライドが、もし嘘なら情けないと言って邪魔をするのだった。

ところがある日、そんなプライドのせいで、自責の念に苛まれることとなる。

そのとき、僕は雨に打たれる街中を、家に向かって早足で過ぎてゆくところだった。雨のじめじめした空気が苦手で、本降りになる前にさっさと帰ってしまいたかったのだ。

ふと目をやると、傘もささずに橋の上に立につくす「彼」と目が合った。

「どうしたんだよ。風邪ひくぞ。」

僕の呼びかけに、彼は随分と心地よさそうな表情を見せてこう言った。

「最近気分が良くて。」

彼にしては、とても気分が良さそうには見えない容姿をしていたが、ぼくはすっかり悪夢から開放されたものだと思って彼にこう言った。

「あの夢はもう見なくなったんだな。」

すると彼は、ぼくのほうをみて首を傾げ、

「何のことだよ。」

そう言って、本当に何も知らなそうに微笑んだのだった。

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