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とくのしんさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

自殺の名所案内 あるタクシー運転手の体験談
長編 2022/09/01 18:00 4,297view
「すみません。〇〇〇へ行きたいんですが」


人づてに聞いたあるタクシー運転手山中の体験談。
深夜、酔っぱらった客を駅まで送る。料金を受け取り千鳥足気味の客を見送った。

「今日はこれで上がるか」

山中が帰路に着こうと思った矢先、不意に人の気配を感じて視線を横に向けた。するとそこに50代くらいの中年男性が立っていた。

「すみません、〇〇〇まで行きたいのですが」

男が発した場所は自殺の名所。こんな夜中に・・・と山中は時計に視線を落とし断ろうと思った。しかし、その日は売上も芳しくなかったこともあってつい引き受けてしまった。

男は「ふーっ」と大きく息をついて深々と後部座席に腰をかける。男は疲れているのか俯きがちに鞄を抱えていた。山中は普段あまりルームミラーを見ないようにしている。お客と目が合い気まずくなるのを避けるためだ。しかし、今日この時間に限ってはその男が気になって仕方なかった。こんな時間に自殺の名所に向かおうとするくらいだ、きっと相当の訳ありなんだろう。山中は話しかけるべきか否かで迷っていた。

そんな山中の視線をミラー越しに感じたのか、まず男が口を開いた。

「こんな時間にすみませんね」
「いえ仕事ですからお気になさらずに」
「〇〇〇はここからどれくらいでしょうか?」
「この時間だと車が少ないから30分もあれば着きますよ」
「そうですか」

男は窓の外を眺めながらポツリと呟いた。

「こんな時間に〇〇〇に何か用事でも?」

山中は訊くかどうか葛藤を続けた挙句、本題に切り込んだ。
男は表情を変えることも視線を変えることなく無言のまま。
山中はしまったと思い「申し訳ありません。余計なことを訊いてしまいました」と謝罪をした。

車内ではしばらく沈黙が続いた。そして男は深いため息をついたあとに口を開いた。

「実は先月、娘が自殺しましてね。その場所が〇〇〇だったんですよ」

男の唐突な一言に言葉を失った山中に対し、男は続けざまに話し始めた。

「とてもいい娘だったんです。勉強もできて運動もできて、高校大学と良いところに進んで大きな会社にも勤めたんですよ。でもそんなことどうでもいいくらいに素直で優しい娘でした。私は早くに妻に先立たれたのですが、それだけに娘は私の全てでした。でもね、やっぱり男親はダメですね。娘のことを何一つわかってやれなかった」

男は絞りだすような声で語った。
山中はそれに対して相槌一つ打つことができなかった。あぁ、この男は〇〇〇でこのあと娘の後を追うために自殺するのだろう。それがわかっているから山中は無言を貫いた。それと同時に興味本位で訊いたことをひどく後悔した。

〇〇〇まであと10分程度というところ、交差点で赤信号に捕まった。山中はここで一度冷静になり引き返すべきか否か迷った。自分が運ぶこの男は間違いなく自殺する・・・それを手助けしているような罪悪感に襲われ、ハンドルを握る手が汗でびっしょり濡れたのがわかった。

「戻りませんか?」山中は男に今一度踏みとどまって貰おうと心に決めた。それを見透かしたのかどうかはわからない、男は「あとどれくらいで着きますか?」と振り返った山中の言葉を遮るかのように質問してきた。

男と目が合った。死の決意を強く感じさせる目だった。何を言ってもこの男は自殺を止めないだろう、山中は出掛かった言葉を飲み込み「あと10分程度です」とだけ返した。

それから無言のまま車は進み、〇〇〇へと辿りついた。
山中は「4,000円です」と料金を告げると男は1万円を差し出した。
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コメント(8)
  • 何か切ないな。でも死んでしまったらどうしようもない。

    2022/09/01/21:55
  • 上手い文章。読みやすかった。

    2022/09/04/19:04
  • 親より先に死んではいけない。

    2022/09/05/12:35
  • さだまさしみたいだな

    2022/09/07/22:27
  • 最近の投稿者の中で一番面白いな

    2022/09/08/23:29
  • 仕事は仕事だけど、つらいな。

    2022/09/10/14:08
  • Youtubeから来ました!

    2022/09/13/08:58
  • 東尋坊。

    2022/09/14/21:55

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